過去の希望、未来の遺産

【その14:突きつけられた現実】

 異世界における、真の終焉。
 本来の世界における、新の終焉。
 隠れた敵は、欺瞞に満ちて……

「あかん。ピクリとも動かん」
 運転席から出てきたキンタロスが、むうと呻きながらぼやく。
 未だにデンライナーを風が覆っているため、外に出る事が出来ないのは仕方ないとしても、デンライナーその物が全く動かなくなってしまったのだ。
 力自慢のキンタロスですら、デンバードのハンドルを動かせなかったと言うのだから、相当な物である。
「おい熊公、パスは抜いてみたか?」
「……何言うとんのや桃の字。パス抜いたら動かんやろ」
「何か引っかかる事でもあるの?」
 軽く眉を顰め、訝しげに問うキンタロスとは対照的に、ハナは神妙な面持ちでモモタロスの顔を見やった。
 その視線を受けてなのか、見つめられている方はカリカリと軽く自身の頬を掻きつつ、記憶を辿るかのように言葉を吐き出す。
「いや、この風が出てくる直前に、『プリズン』って聞こえただろ?」
「うん。そしたら亀ちゃんが慌ててモモタロスの所に行ったんだよね?」
「あの音な、パスの中から聞こえた気がしてよぉ……」
 モモタロスが言い終わるか否かの内に、ハナが運転席に向かって駆け出す。もしモモタロスの言った通りなら、自分達を覆っているこの風は、チケットのせいで起こった事になる。
 チケットのせいで起こったパニック……それはかつて、カイが仕掛けた「デンライナーの暴走」と同じではないのか。
 ……あの時は、駅その物とも言える「キングライナー」のお陰で時間の中を彷徨わずに済んだが、今回はあの時とは状況が違う。あの時は「暴走」だったが、今回は「停止」だし、何より自分達がいるのは「異世界」……キングライナーの助けは期待できない。
「……っ! これって……」
 デンバードに差し込まれていたパスケースを抜き取り……ハナは驚いたような声を上げた。
「どう、ハナさん?」
「……チケットが変わってる。……ううん。チケットじゃなくなってる」
 モモタロスがセットしていたのは、日付だけ書かれたデンライナーのチケット。
 そのはずなのに……今、パスケースの中にあるのは「Common Blank」と書かれたカードであった。それを見て、ウラタロスの顔から血の気が引く。
 そのカードに、見覚えがあった。門を縛る鎖の色と書かれた文字こそ違え、そのカードは橘朔也に渡したカードと同じ物。
「このカード、アンデッドを封印するための物だよ」
「そう言えば……でも、何でそんな物がここにあるのよ!? そもそも偽造チケットじゃデンライナーは動かないはずよね?」
「何でここにあるのかとか、何で動いたのかとか、流石にそれは分からないけど……どうやら元オーナーって人、オーナーにも内緒で何か企んでいるみたいだねぇ」
 そもそも、そのチケット……いや、カードを渡したのは元のオーナーだと言っていた。その人物が何を考えているのかは知らないが、このままではどうしようもない。
 おまけにデンライナーは今、「時間の中」ではなく「現実空間」に存在している。人気がないとは言え、誰に見つかるとも限らないし、今まで気付かれていない事自体が不思議なくらいだ。
「僕、踊らされるのは好きじゃないんだけどね」
 苦笑気味に呟くと、ウラタロスはハナと共に食堂車へ戻り、モモタロスの前で止まる。
「……何だよ、亀」
「もう一枚のチケットを使わないと先に進めないみたいだよ、先輩」
 そう言いながら、彼は手に持っていたパスケースを見せる。
 見せられた方はその中にあるカードを見て顔を顰めたが、唯一ジークだけはふむ、と感心したように唸ると、そのカードをパスケースから取り出して机上に乗せた。
「ここにはもう、見るべき物はない。だからこれ以上は動かんのだろう」
「それ、どう言う意味よ?」
「そのままの意味だよ、姫」
 意味深にそう言うと、ジークはひらりとマフラーを翻し、食堂車の出入り口へと歩を進める。
「ねぇねぇ鳥さん、どこ行くの?」
「散歩だ。小坊主、お前も来るか?」
「外に出られないのに?」
「この列車の中でも、散歩は充分に出来る」
 無邪気に問うリュウタロスに、無意味に彼らを見下すようにしながら言葉を返す。言われた方はそんな態度を気に留めず、一瞬だけ考えたが……特に興味はないらしく、つまらなそうに行かないと答えた。
「そうか。では、私一人で行ってこよう。この列車はお前達の好きにするが良い」
 それだけ言うと、ジークは食堂車から姿を消す。
「……とにかく、次のチケットを使うしかねぇ、か。こーなったら自棄やけだ! やってやろうじゃねえか!」
 ジークのマイペースぶりに当てられたのか、言葉通り自棄気味にそう言うと、モモタロスは持っていたもう一枚のチケット……二〇〇八年四月十八日の物をパスにセットし、再び運転席へと向かって行った。

「隠れていないで、出てきたらどうだ? 『皇帝の下僕』よ」
 デンライナー・ゴウカの四両目。バーディーミサイルと呼ばれる、対ギガンデス武器の格納されている車両。
 普段なら誰も入る事のない場所なだけに、電灯は点いていない。明かりと言えば窓から入る光のみで、とても明るいとは言えないそこへ足を踏み入れた途端、ジークはその薄暗い空間に向かって呼びかけた。
 彼の呼びかけに応じるように、薄闇の中から女が姿を現す。彼女はデンライナーの元オーナー。トンネルの向こうへ続くチケットをオーナーに渡した張本人だ。
 彼女は深々とジークに一礼すると、どこか皮肉気な笑みを浮かべて言葉を紡ぎだす。
「……よく、分かったな」
「そなたの気配は、特徴があるからな。……この列車を作り、我らをこの世界に導いたのもそなたであろう?」
「そうだな。……導いたと言うには、多少強引な手段を用いた訳だが」
 ジークの問いに短く答え、彼女はするりと窓の外に視線を向ける。
 デンライナーが、今いる世界……「トンネルの向こう」の二〇〇八年四月に向かっているのを実感するためか。
「偽りの世界など見せて、どうするつもりなのだ?」
「……確かに、この世界は偽りだ。だが『この世界』で起こる事は、『我々の世界』でも起こった事……そして、起こる事でもある。それはあなたもご存知だろう?」
「……ふむ。ここでの出来事は、遥か過去であり、遠い未来でもあると。そう言いたいのだな」
「その通りだ。現に何度か前の……そして、何度か後の歴史につなげようとするトンネルも、数多く存在している」
 窓の外を見たままジークの言葉に返し、彼女は不愉快と言わんばかりの表情を浮かべて見えない何かを睨みつける。
 彼女はどうやら知っているらしい。元の世界で、トンネルが増えてきているその理由を。そして、それから守るには、自分だけではどうしようもないと言う事を。
「そなたの仕事は終わったのか?」
「殆ど。あとはモノリスを奴から……『月』と呼ばれし存在から奪い返すのみ」
「……その為に、そなたもこの列車に乗ったのだな。ご苦労」
「お褒めに預かり光栄だ。ついでに手伝って頂けると涙が出る程嬉しいのだが」
 ジークのやる気の無さそうな声に、彼女は無表情のまま、皮肉気に言葉を返す。だが、聞いているのかいないのか、ジークは楽しそうな笑みを浮かべ……
「私は、私の気の赴くままに動く」
「……知っている。言ってみただけだ」
 彼女の言葉と同時に、デンライナーの速度が落ちる。どうやら目的の時間がすぐそこまで迫っているらしい。
「さあ、そろそろ開演時間だ。偽りの世界で演じられる『悲劇』の、な……」
「その悲劇とやらの主人公は、剣崎一真か?」
「『剣崎一真』と『相川始』だ。……少なくとも、私の知る歴史通りならば」
 瞑目したその表情は、嘆きかそれとも悲しみか。どちらとも取れそうでいて、どちらにも取れそうにない声でそう言うと、彼女はゆっくりとジークに向かって再び一礼をし……
「もう、食堂車に戻られてはいかがか? いつまでもこのような所にいては、怪しまれるぞ」
「それもそうだな。では、戻って見物するとしよう。この茶番劇を」
 くるりと踵を返し、ジークはさっさと食堂車の方へ戻っていく。それを見届けて……彼女は、また窓の外に目を向ける。
「……『永い間生きているのは退屈』……か」
 こことは別の世界で、誰かが言っていた言葉。
「……『あいつ』も……そう思ったのだろうか?」
 視線の先にいる、「この世界の」剣崎一真を眺めながら、ぽつんと呟く。
 仄暗い闇と真紅の兵器だけが、今の彼女の問いを聞いていた。

 がくん、とデンライナーが止まる。
 相変わらず、デンライナーを包む風の膜は消えないし、現実空間に停車しているにも関わらず、誰もこちらに気付いている様子はない。
 近くを通る者は皆、風が強いとぼやいて上手い具合にデンライナーを避けて通っていた。
「どうやら、次の時間に着いたようだな。丁度良い具合に今回の主人公の側でもある」
 いつの間に戻ってきたのか、食堂車の隅でぶどうジュースをワイングラスに注ぎつつ、ジークがいつもの口調で言い放つ。車内散歩でだいぶ気が紛れたのか、先程見せた不快な色はなくなっていた。
――今回の主人公?――
 ジークの言葉を不審に思い、全員がつられる様に窓の外を見て……驚いたように息を呑んだ。
 すぐ目の前に、ジョーカーを封じた者……剣崎一真がいたのだから。

「あーあ……皆変わっちゃったよなあ。橘さんは行方がわからないし」
 寂しさと侘しさの混ざった声で、剣崎は目の前にいる男……白井虎太郎に向かってそう言った。
 全てのアンデッドを封印してから、今年で四年目になる。
 その間に、剣崎はゴミの清掃員に、虎太郎はベストセラー作家になっていた。睦月は就職の真っ最中で、広瀬に至っては近々結婚すると言う。
 今度、栗原天音の誕生日パーティーをやる……という名目で、虎太郎が知人達に声をかけたのだが……
 橘は、カテゴリーキング封印以降、その行方をくらませており、生死不明。
 睦月は、自分が普通の大学生に変わったと……だからこれ以上、関わるなと言っていた。
 広瀬は、普通の女の子に戻って、今度は可愛いお嫁さんになるのだと、嬉しそうにはしゃいでいた。
 ……それが、剣崎には寂しかった。まるで、知らない人と話をしているみたいで。
「確かにもう俺達はライダーじゃない。ベルトも、カードも烏丸所長に返して、ライダーが必要なくなって、良かったとは思うけどさ。たまには、昔を思い出したって良いと思う」
「うん」
「今の仕事嫌いじゃないし、プライドを持ってやってるんだけど、時々思うんだよね。仮面ライダーとして、アンデッドと戦っていた頃が、一番幸せだったかなぁ……って」
 心底懐かしそうに、どこか遠くを見ながら言う剣崎。
 確かに、あの頃は平和とは言えなかった。その点では今の方が良いに決まっている。
 それでも、あの頃は分かり合える仲間がいた。自分が、生きていると実感できた。
 「お帰り」と言ってくれる人がいたのは、家族を幼い時に亡くした剣崎にとって本当に幸せだった。
「うん、わかるよ」
「本当にわかんのかよ?」
「実は、僕もそうなんだ。……急に本が売れて、皆にちやほやされてさ。……悪い気分じゃないんだけど、何か……本当の自分じゃないような気がするんだよねぇ……」
「そっか……」
 ベストセラー作家となった虎太郎もまた、剣崎と同じ寂しさを抱えていた。
 自分の本が売れて、夢にまで見たベストセラー作家になって、そして思い切り贅沢の出来る身分になれたのは、ありがたい話である。
 お金は欲しいし名誉も欲しい。おいしい物だって食べたいし豪華な服だって着たいし、女の子に騒がれるのも満更じゃない。
 だが、近付いてくる人間は欲にまみれ、自分もまた欲に塗れてしまっている様な気になっていた。
 そういう点では、アンデッドと戦う剣崎をサポート……もとい、取材していた頃の方は本当に楽しかった。
 そんな感傷に浸りかけたその時だった。唐突に、悲鳴が聞こえたのは。
 何事かと思って反射的に見やったその視線の先にいたのは……人を襲っている、アンデッドの姿だった。
「どういう事さ!? 全部封印したんだろ!?」
「ああ。しかもあれはカテゴリーエース。……俺は奴を封印したカードを使って、ブレイドに変身していたんだ!」
 言い終わるかどうかのうちに、剣崎はカテゴリーエース……ビートルアンデッドに向かって駆け出す。
 勝てる算段がある訳ではない。ただ、無意識の内に体が反応していた。
 よく見れば、そこにいるアンデッドはそれだけではなかった。
 ローカスト、カプリコーン、モス、ゼブラ、バッファロー……見ただけでもそれだけのアンデッドが、そこにいる人々を無差別に襲っている。
 手近にあった木の棒を振るい、剣崎はビートルアンデッドに向かってそれを振り降ろす。流石に甲虫の祖と言うべき存在。硬い感触を知覚した直後、ジンと痺れるような感覚が彼の手を襲う。
 舌打ちしたい気分に駆られたが、そんな暇も与えてくれず、相手は鬱陶しそうに剣崎の体を払い、体は大きく吹き飛ばされるだけ。
「一体何がどうなってるのさ!?」
「分からない! 何が何だか!」
 助け起こしに来た虎太郎の問いにそう答え、剣崎は未だ暴れ続けるアンデッド達を睨みつける。
 そして……その時だった。三台のバイクがこちらに向かってきたのは。
 近くにバイクを止めると、逃げ惑う人々の流れに逆らい、アンデッドに向かって歩き出す三人の若者。いずれも十代後半か二十代前半。一人は誠実そうな好青年、一人は生意気そうな青年、そしてもう一人は気の強そうな女性。
 一見するとサークル仲間か何かのように見える三人組だが、その手にはライダーのバックルと思しき物がある。彼らはそれに何かのカードをセットすると、アンデッドの方に何の迷いもなく歩み寄っていく。
「あ、あれは!?」
 虎太郎が、不思議そうにそう呟いた瞬間。三人はそのバックルを腰に当て、ベルトとして自分に装着されるのを待ち……
『変身』
『OPEN UP』
 バックルを開き、エネルギーの壁が展開。それはやって来た三人を見た事のないライダーへと変身させた。
「仮面ライダー!?」
 三人の姿はほぼ同じ。マスクの横の部分に「A」の文字を連想させる飾りが大きく施されており、胸の辺りにも同じような飾りがある。
 彼らを見分けるには、単純にアーマーの色で見た方が良さそうだ。誠実そうな青年は黄色、生意気そうな青年は緑、そして女性は赤。唯一黄色のアーマーの戦士だけは、リーダー格なのか仮面の正面にも大きく「A」が施されている。
 瞬時に相手との距離を測ったのか、黄の戦士はビートル、ローカスト、そしてカプリコーンをやや細身の剣で、緑の戦士はモール、ゼブラ、そしてプラントを槍で、そして赤の戦士はイーグル、モス、トリロバイトをボウガンでそれぞれ応戦しだす。
 だが、アンデッド達は分断されるのは得策ではないと判断したらしい。ちらりとそれぞれを見やると、示し合わせでもしていたかのように一箇所へ集まってゆく。
 それを逃がすまいと、三人のライダー達も、アンデッド達と入り乱れるようにしながら戦う。混戦になってきたのを見て不利と判じたのか、ビートルアンデッドはライダー達に見つからぬよう、混乱に乗じてそっとその場を離れていく。
 そしてすぐに、戦局はライダー達へと流れていった。長期戦は不利と判断したらしく、緑の戦士は持っていた槍に何かのカードを読み込ませ、ローカストアンデッドに向かって突き進む。
『MIGHTY』
 電子音がそのカードの名を告げ、エネルギーのチャージされた一撃が、ローカストアンデッドの腹部に命中。倒れたのを見て、緑の戦士はそれを封印し、満足そうに頷き、再び混戦の中へとその身を投じる。
 その頃、赤い戦士はやはりマイティのカードを使ってトリロバイトアンデッドを、黄の戦士はゼブラとモスの二体を、それぞれ封印する。
 一方、緑の戦士と入れ違うようにして剣崎と虎太郎がそこへ駆けつけ……剣崎は自分の足元に、一枚のラウズカードが落ちているのを見つけて、拾い上げる。恐らく緑の戦士がマイティのカードを取り出す時に落としたのだろう。
「これは……」
 剣崎が拾ったカードは、かつて自分も使っていた物。「スペードの3」である「ライオンビート」のカードだった。

「どう言う事!?」
 あらかた封印され、そして封印を逃れたアンデッドがその場から退却したのを見届けるや否や、ハナは半ば叫ぶようにして問う。だが、その問いに答えを返す者はいない。
「この世界では、アンデッドは、二〇〇五年の一月に封印されたはずじゃなかったの?」
「ハナさんが気になるのは、それだけ?」
「どう言う意味よ、ウラ?」
「あの三人……」
 変身を解き、それぞれの健闘を称えながら自分達の乗ってきたバイクへと戻ろうとする三人のライダーを半ば観察するように見つつ、ウラタロスは言葉を続けた。
「……ケルベロスのカードで、変身してたよね?」
 言われてみれば、確かに。彼らが変身した時に現れたエネルギーの模様は、かつて天王路が作った「三つ首の獣」……ケルベロスの絵柄その物だった。
 では、彼らは天王路の子飼いの者達だったのだろうか。それともこの世界は、元の世界とは何かが異なるのだろうか。
「ちょっと待ってくれ! あんた達は一体……!」
 思考の海に沈みそうになるハナを引き戻すのは、こちらと同じく不思議に思ったらしい剣崎の声。
 その場を立ち去ろうとする彼らを引き止め、何者なんだ、とでも言おうとしたのだろうが……剣崎のその言葉は、女の放った一発の平手打ちで遮られた。
「何考えてるのよ。素人のくせにアンデッドと戦おうとするなんて」
 馬鹿じゃないのと言わんばかりの声と表情で、女はそう言って踵を返す。まるで、剣崎の存在が邪魔であるかのように。
 しかし、その言葉から察するに、剣崎がかつてブレイドという名の仮面ライダーであった事は分かっていないようだ。
「……ちょっと待てよ……!」
 殴られたと言う事実か、それともこちらを見下しきった声にか。剣崎はほんの僅かにではあるが苛立ったような声で呼び止めると、彼女に掴みかからんばかりの勢いで追い縋る。だが、それを青年の一人……黄の戦士に変身していた方に逆に胸座むなぐらを掴まれ、動きを封じられた。
 ……その気迫に、剣崎は一瞬気圧され……それを見て取ったのか、青年もバイクの方に向かって歩き出した。
 それに乗って走り去る彼らを眺め……虎太郎は何かを思いついたように、そして剣崎を気遣いながらも、去っていく三人の後を追っていく。
「……僕、あいつら嫌い」
 小さくなっていく三人の背中を睨みつつ、リュウタロスがそう宣言する。眉間に皺を寄せ、外に出れば無条件に攻撃しそうな雰囲気を醸し出している。
「何や。いきなり打ったからか?」
「熊公。だったら真っ先に嫌われんのはハナクソ女……って、ごはぁっ」
「……先輩、ホント良い加減学習しようよ」
 余計な事を言ったせいで、顔面にハナの裏拳を喰らって倒れたモモタロスを、呆れた表情で見下ろすウラタロス。そんな小脇で展開されるベタなどつき漫才には興味ないのか、リュウタロスは更にキュウと眉根を寄せ……
「それもあるけど……それ以上にあいつら、何かすっごく嫌な感じがした」
「嫌な感じ?」
 あからさまに不機嫌そうなリュウタロスを宥める為なのか、コーヒーを出したナオミが鸚鵡返しに言葉を返す。
 言葉では答えず、ただ黙って首を縦に振るリュウタロス。彼は本質的に、ああ言った存在が嫌いらしい。……相手を見下すように見るしか出来ない存在が。
 だが、彼が感じているのはそれだけなのだろうか。彼の言う「嫌な感じ」とは、もっと別の何かでは……と、思っても答えなど出ない。ちらりと外を見ると、そこには剣崎一真が一人取り残されているだけ。
「どうして仮面ライダーが? 何でアンデッドが? 何がどうなってんだよ、一体……」
 訳も分からないと言ったように剣崎が呟く。そして、混乱しているのは、デンライナーの乗客とて、同じ事だった。
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