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天災と凡夫の話 対話

*それから時は過ぎて月が変わる。スモッグに覆われた空では四季などはなく


「君に新聞をねだるようになってそれなりに経つが、こりゃ君達、随分と追い詰められているんだねぇ」
「なんだ、お前字が読めなかったのか?その新聞に書かれた“勝利”“勝利”“勝利”の字が見えないのか?我が国は優勢らしいぜ?」
「君こそ字が読めないわけじゃないだろう?“勝利”という割には具体的な話なんてのってない、随分と勿体つけた“勝利”もあったものだよ」
「“勝ってる”ってことになってんだよ」
「あー、まぁたそんなこと繰り返してるのか。随分と使い古された手だ。まぁいい。僕が言った君達ってのはこの国の話じゃない。“人類”その存続についての話さ」
「なんだ、随分とスケールの大きな話になったな」
「予想よほど人間の良心の値崩れが速い。命の価値なんて気にかけないのが当たり前になっている」
「そりゃこんなご時世だからなぁ他人のことまで気にしてられないだろ。というか、命の価値を暴落させたのはあんたのネクロマンシー技術が主因だろ。復活が神聖でなくなったときの宗教家共の混乱、見せてやりたかったぜ」
「………そうだな、それはたしかに、私の咎だ。だから私は自分の研究資料を焼いて…いや、今更何も言うまい。どうにもならないことだ」
「なんだ、あんたが焼身自殺したのはそれが理由だったのか。てっきり自分の死体を使われたくなかったのかと思った。……というか、あんたまさかそんなことを気にする感性があったのか?」
「笑うかね」
「いいや、同情するね。そりゃあ科学者に向いてないな。俺たちは知りたいと思ったことは暴き尽くす生き物だろう。神秘、なんて秘されれば暴きたくなるのは仕方ないさ。それに、さっきはああ言ったが細々と残ってる宗教家はいるんだ。良心なんてものはそいつらに任せておけばいいだろ」
「あんなものが宗教の、信仰のはずがない。あんなもの、ただの集金システムだ。それに科学者は必ずしも神秘を冒涜するものではないはずだ」
「昔の“宗教”ってのは違ったのか?」
「…たしかに、そういう面もあったことは否定できない。でもたしかに皆が共有する“価値”があったんだ。なぁ君、昔は皆どこかで、大いなる存在の価値に膝を折る気持ちが少なからずあったんだ。それがあるからこそ純粋な“祈り”が生まれたんだ。……君はお守りを切ることができるかい」
「オマモリ……あぁ、あの神社で売ってる布の袋か。そりゃ切れるだろう。中に紙の入った普通の布の袋だろ?」
「昔は多くの人ができなかったんだ。できない、とまでは言わなくとも抵抗を感じていた。今はそれがないんだろう。わたしにはそれが、人間が感じられる価値がすり減っていっているようにしか思えないんだ」
「信者でもないのにか?不可解だな。だが、減った価値があれば増えたものもあるだろう。再びの生。生きる期間が延びるなら、それは単純に価値が増えてるんじゃないか?」
「それは違う。違うんだ……アンデッドにはたしかに自我がある粘菌で満たされてる以上、たしかに“生きて”すらいる。それは尊重されるべきだ。ただ、アンデッドと生命の“生”は違う。天に与えられた体で、老いを重ねていく。その喜びを、二度目の生にかまけてサボるべきではない。皆んなそれを忘れているから、命を安いものにしてしまうんだ」
「そういうものか。俺には難しくてよくわからない……おっと、そろそろ回診の時間か。もう行くが、また何か欲しいものがあれば買ってくるぞ」
「ならば最新の科学と時事の資料を。前に君がくれた分はそろそろ読み終わりそうなんでね」
「わかった。……じゃあな」
「あぁ、また」






「………(アンデッドには、か。あの時俺はサヴァント未満は除外して考えていた)」
「………(それこそが、失われたもの、なんだろうか)」
「まぁ、俺には関係のないことだ」

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