「佐藤藤野」
「新太郎さん。」
少女の呼び声で、少年は立ち去りかけたのを戻ってきた。まだ幼い男の子に、少女がそっと見せたのは美しい簪。
「綺麗だなす。貰ったのすか。」
少年の純粋な問いかけに、少女は涙を目に溜めながら、ウンと頷く。
「阿母さんから。」
そうして二度ほど啜り上げて泣く。
「富太郎さんに苛責られたのすか?」
富太郎と言うのは、少女が母と共に住まわせてもらっている新家という家の長男坊である。
「二人に。」
少女が泣くのに、少年はどう言ってやることも出来ない。慰めてもやれず、黙って顔を見つめていた。すると少女は、花飾りのついた簪を指先で弄り、
「これ上げようかな?」
と言った。少年は刈りあげた坊主である。少女は簪を後ろ手にして、
「お前は男だから。」
と言い、涙に濡れた顔に美しく笑った。
藤野さんは、世界で一番美しく、善いひとである。こんなひとが、悲しいまま『終わる』ことが信じられなかった。そうであってはならなかった。
だから、くるりと背を向けて駆けていこうとする少女を呼び止めた。
「藤野さァん。」
すると少女はピタリと止まる。再びくるりと顔を向けた少女はやはり泣いていたが、笑い顔を見せてくれる。
「なあに、新太郎さん。」
まさか己を頭から食おうとする者がいるとは思いもしない、やはり美しい笑い顔であった。
少女の呼び声で、少年は立ち去りかけたのを戻ってきた。まだ幼い男の子に、少女がそっと見せたのは美しい簪。
「綺麗だなす。貰ったのすか。」
少年の純粋な問いかけに、少女は涙を目に溜めながら、ウンと頷く。
「阿母さんから。」
そうして二度ほど啜り上げて泣く。
「富太郎さんに苛責られたのすか?」
富太郎と言うのは、少女が母と共に住まわせてもらっている新家という家の長男坊である。
「二人に。」
少女が泣くのに、少年はどう言ってやることも出来ない。慰めてもやれず、黙って顔を見つめていた。すると少女は、花飾りのついた簪を指先で弄り、
「これ上げようかな?」
と言った。少年は刈りあげた坊主である。少女は簪を後ろ手にして、
「お前は男だから。」
と言い、涙に濡れた顔に美しく笑った。
藤野さんは、世界で一番美しく、善いひとである。こんなひとが、悲しいまま『終わる』ことが信じられなかった。そうであってはならなかった。
だから、くるりと背を向けて駆けていこうとする少女を呼び止めた。
「藤野さァん。」
すると少女はピタリと止まる。再びくるりと顔を向けた少女はやはり泣いていたが、笑い顔を見せてくれる。
「なあに、新太郎さん。」
まさか己を頭から食おうとする者がいるとは思いもしない、やはり美しい笑い顔であった。
