終章
「……あー……」
「石川君、また小説のことで悩んでるの? 書くことはもう決まった?」
「高村か、聞いてくれよ。書くことはとりあえず決まったんだけどよ……」
「あ、本当に決まったんだ。どんなことを書くの? 確か司書さんの……」
「あー、そっちはまた今度。優先して書いてやらなきゃならねぇ話があってよ、まずそっちから書いてやることにしたんだ」
「へぇ、書いてやらなきゃならない話。誰かに依頼でもされたみたいな口ぶりだね」
「まー、依頼っつか? 親の責務っつーか。でだ、んなことはいいんだよ。今その話の構想を練ってるんだが、どうにも、こう、想像が追い付かなくってよ……」
「想像が、ねぇ。どんな話を書くつもりなのか、聞いても良いかい?」
「内緒にしたってしょうがねぇし、特別に聞かせてやるよ。主人公は新太郎って言って、田舎で生まれてずっと暮らしてきたんだが、村に越してきた美しい少女に恋をする」
「ふんふん」
「だが少女は何か考えに囚われていて、ある日なんか簪を手に持って泣いてやがるんだ。理由を尋ねてもろくに喋らねぇ。新太郎は大方、少女の従兄弟の野郎に苛められたんだと考えて、そいつらに復讐を……」
「石川君、一つ確認しても良いかい。それ、今のところ『二筋の血』のままなんだけれど、大丈夫?」
「こっからオリジナリティ出すんだっての! あと、そのままになったとこがあってもいいんだよ。新太郎の人生を、俺様の手で面白おかしくしてやるんだから」
「……あ、あー、うん? なるほど、昔自分が書いた作品の焼き直し……というより、今の自分が書くならどう書くか試そう、っていうことかな」
「まーそんなようなこった。ちなみにタイトルも考えてはいてよ、『二筋の……』」
「折角だから、元々考えていた構想も合わせてしまったら?」
「……は? どういうことだ?」
「司書さんをモデルにして何かを書く、って話もしていたでしょう。それも一緒にしてしまって、例えば今の話に出て来た少女に、司書さんの人物像を託してみるとか。そうすると書きやすくなるかもしれない」
「……それは、何か嫌だ」
「あれ、駄目? 良い案だと思ったんだけどな」
「それとこれとは別だ、絶対別にする。高村のお陰で絶対に譲れない線が見つかったぜ、有難うな!」
「どういたしまして」
「ったくよぉ……。あ、そういや高村。今日って六月二十一日だったよな」
「そうだよ。何か予定があったのを思い出した?」
「いや。……偉大なる芸術家の高村大先生に、つかぬことを聞くんだけどよ」
「急に怖いな……何?」
「小説の主人公に、誕生日祝いを贈ってやるとして。何が良いと思う?」
「…………やっぱり、書いてあげること、じゃないかな?」
「やっぱそれしかねぇよなー。間に合わねぇし来年にしてもいいかぁ……?」
「……ふふ」
「あ? 何で笑うんだよ。おかしいとこあったか?」
「ううん、ごめん。なんでもないよ。そうだな、いきなり完成品にしなくても、近年じゃショートショートって言って、たった数行の作品もあるようだから、そういうものを書いてあげたらいいんじゃないかな。君が短歌でやるみたいに、新太郎の面白おかしい日常の、あるワンシーンを切り取ってあげるとか」
「あー、そういう手もあんのか……。サンキュー高村、今からネタ集めに行ってくるぜ! もし司書が俺様のことを探しに来たら、あいつは執筆中だって言っといてくれ!」
「あっ、石川君! ……ふふ。相変わらず忙しない男だな、彼は」
「高村さん」
「司書さん、こんにちは。どうかした?」
「石川さんを探しているのですが……お昼の休憩から、まだ戻っていらっしゃらなくて」
「……あー……」
「何か御存じですか?」
「……石川君は、今はね」
終
「石川君、また小説のことで悩んでるの? 書くことはもう決まった?」
「高村か、聞いてくれよ。書くことはとりあえず決まったんだけどよ……」
「あ、本当に決まったんだ。どんなことを書くの? 確か司書さんの……」
「あー、そっちはまた今度。優先して書いてやらなきゃならねぇ話があってよ、まずそっちから書いてやることにしたんだ」
「へぇ、書いてやらなきゃならない話。誰かに依頼でもされたみたいな口ぶりだね」
「まー、依頼っつか? 親の責務っつーか。でだ、んなことはいいんだよ。今その話の構想を練ってるんだが、どうにも、こう、想像が追い付かなくってよ……」
「想像が、ねぇ。どんな話を書くつもりなのか、聞いても良いかい?」
「内緒にしたってしょうがねぇし、特別に聞かせてやるよ。主人公は新太郎って言って、田舎で生まれてずっと暮らしてきたんだが、村に越してきた美しい少女に恋をする」
「ふんふん」
「だが少女は何か考えに囚われていて、ある日なんか簪を手に持って泣いてやがるんだ。理由を尋ねてもろくに喋らねぇ。新太郎は大方、少女の従兄弟の野郎に苛められたんだと考えて、そいつらに復讐を……」
「石川君、一つ確認しても良いかい。それ、今のところ『二筋の血』のままなんだけれど、大丈夫?」
「こっからオリジナリティ出すんだっての! あと、そのままになったとこがあってもいいんだよ。新太郎の人生を、俺様の手で面白おかしくしてやるんだから」
「……あ、あー、うん? なるほど、昔自分が書いた作品の焼き直し……というより、今の自分が書くならどう書くか試そう、っていうことかな」
「まーそんなようなこった。ちなみにタイトルも考えてはいてよ、『二筋の……』」
「折角だから、元々考えていた構想も合わせてしまったら?」
「……は? どういうことだ?」
「司書さんをモデルにして何かを書く、って話もしていたでしょう。それも一緒にしてしまって、例えば今の話に出て来た少女に、司書さんの人物像を託してみるとか。そうすると書きやすくなるかもしれない」
「……それは、何か嫌だ」
「あれ、駄目? 良い案だと思ったんだけどな」
「それとこれとは別だ、絶対別にする。高村のお陰で絶対に譲れない線が見つかったぜ、有難うな!」
「どういたしまして」
「ったくよぉ……。あ、そういや高村。今日って六月二十一日だったよな」
「そうだよ。何か予定があったのを思い出した?」
「いや。……偉大なる芸術家の高村大先生に、つかぬことを聞くんだけどよ」
「急に怖いな……何?」
「小説の主人公に、誕生日祝いを贈ってやるとして。何が良いと思う?」
「…………やっぱり、書いてあげること、じゃないかな?」
「やっぱそれしかねぇよなー。間に合わねぇし来年にしてもいいかぁ……?」
「……ふふ」
「あ? 何で笑うんだよ。おかしいとこあったか?」
「ううん、ごめん。なんでもないよ。そうだな、いきなり完成品にしなくても、近年じゃショートショートって言って、たった数行の作品もあるようだから、そういうものを書いてあげたらいいんじゃないかな。君が短歌でやるみたいに、新太郎の面白おかしい日常の、あるワンシーンを切り取ってあげるとか」
「あー、そういう手もあんのか……。サンキュー高村、今からネタ集めに行ってくるぜ! もし司書が俺様のことを探しに来たら、あいつは執筆中だって言っといてくれ!」
「あっ、石川君! ……ふふ。相変わらず忙しない男だな、彼は」
「高村さん」
「司書さん、こんにちは。どうかした?」
「石川さんを探しているのですが……お昼の休憩から、まだ戻っていらっしゃらなくて」
「……あー……」
「何か御存じですか?」
「……石川君は、今はね」
終
