七話 雲隠月虎
「おま、えは……」
「私は鬼舞辻無惨だ。誰かと見誤ってくれるな。二度と貴様らのような汚れた血と同じにするな」
キブツジ、鬼舞辻……。この目の前の、あの日見た面影が。儚くも、散り散りに消えた。
「畜生め!!」
理性など無い姿に成り果てた。家族も、産屋敷のことも、全てが汚物?いや、それは違う。お前こそが汚い生物なのだとギラギラとした瞳で吠える。荒い呼吸を隠そうともせず、牙を剥いて刀を振り上げる。
────炎の呼吸 伍ノ型 炎虎
「残念だな、朔間の残党。貴様には一族の呪いがその醜い身体を蝕んでいる。無駄な足掻きとしか言えん」
「黙れ!!そのひとから、手を、離せ!!お前の汚い手で、触れるな!!」
「鬼のような形相とは当にこのことだな」
余裕ぶった言動、表情も全てが忌々しい。鬼にそのようなことを言われるのは癪だ。肺がこいつを逃すなと言っている。心陽は震える右手を左手で支え、構えた。
「あ゛あ゛あ゛ああああッッ!!」
────炎の呼吸 壱ノ型 不知火
「梯立てても及ばぬ。痴態を晒すだけだ」
切っ先が無惨の頸に触れそうだったとき。琵琶が鳴り響き、目の前の男が嗤った。世界が入り組み、無惨との間に障壁が生まれる。悔しかった、あんなことを言われても手が届かなかったのだ。ふと、
(あれは……水柱様?)
顔を見ずとも分かる半々羽織に、無造作に結んだ髪の毛。青色の刀身。那田蜘蛛山の際に存在を確認した程度だったが、水柱────冨岡義勇だ。そして、隣には炭治郎の姿もある。ああ、そういえば彼は冨岡に救われたのだったか。近づきつつ、二人が見つめる先を心陽も探す。
入れ墨が入った腕、数珠が付いた脚、禍々しい顔の刺繡。冨岡と炭治郎の背後にいることに気づいたのか、鼻であしらう。
「心陽……!」
覚悟の込もった眼差しが向けられる。もう、彼は己の弱さに泣くような少年では無かった。心陽は無言でそれに頷く。青年のような容貌をした鬼はあの夜に似た笑みを零す。
「さあ、始めようか」
冨岡が強く刀を握るのを感じ、炭治郎が意志を強く持って睨んでいるのが分かる。深呼吸をして、師を殺した宿敵に対峙する。
「宴の時間だ」
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