七話 雲隠月虎
「呪いって……。身体の異変は、最近肺が不調ということくらいしかありません」
「……当に、それだよ」
え?と真っ青な顔で返事をする。どの病院でも解明されなかったこれが、鬼による呪い?咲希は彼に遭っていないから、呪いは無いとも続けた。それ以上、耀哉は何も言わなかった。
俯いて頭の中を真っ白にしているうちにあまねが茶を持ってきた。心陽はそれを少し喉に通し、落ち着く場所に行き届いたのを感じると耀哉に瞳を向ける。耀哉の濁った瞳は、生前心陽の父が娘たちに向けていた慈愛と同じだった。
「私が、君に伝えたいことは、全て話し終えたよ……。心陽から、何か聞きたいこと、はあるかい?」
思えば思うほど、父親に似た面影を感じる。力なく布団の上に置かれた手を見て、胴を見て、顔を見て心陽は少し顔を綻ばせた。それは安堵であり、甘えだったのかもしれない。
「お館様。手に触れてもいいですか。私の父さんに、似ていて……」
「……ふふ、勿論。心ゆくまで…………握っていて、いいよ」
冷たかった。もしかしたら、母や父もこんな温度だったのかもしれない。いや、そうなのだろう。あのとき両手で触れた煉獄の右手も僅かに血の温度があるだけで、無情なほど冷たい皮膚をしていた。それでも、確かに心だけは熱が最期まで残っていた。耀哉にも、それがあった。
心陽は目を瞑り、その手に流れる拍動を感じて目を開く。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ……ありがとう。最期に、兄弟に会えて……嬉しいよ。……咲希にも、ちゃんとあとで、伝えておくからね。今日は本当に、ありがとう…………」
心陽は立ち上がって障子に触れ、最後に耀哉とあまねの顔を目に映した。親に会えたようでなんだか名残惜しい気がしたが部屋を後にした。
あまねがふいに耀哉様、と呼んだ。小声でどうしたんだい、とそれに目を伏せて応じる。
「本当に全てをお伝えしたのですか」
あまねは耀哉に真っ直ぐとした黒い黒曜石の瞳を向ける。耀哉は黙って目を瞑り、白い睫毛のついた瞼をゆっくり開かせる。
「これは、彼女自身の問題……だからね。私からは、家のことしか、伝えるべきではない……と思ったんだよ…………」
ですが……と彼女は出し渋りつつ、彼を仰向けに寝かせた状態にした。耀哉はそのまま白紫の瞳を天井に向けてぽつぽつと放つ。
「もう、あの身体では……呼吸法が、身体にそぐわないこと。戦いに出たら……尊いものを、使い切ってしまうこと。……それは、誰でもない彼女が…………一番知っていることだよ」
