七話 雲隠月虎
柱に着任したばかりの、と付け足した。心陽はあの時と同じ暗いやるせない感情をしていることに気がつき、深く息を吐いた。疎遠の血縁者であっても生きる可能性を高めるために、少しでも強い隊士を……と図ったのだとはなんとなく理解できた。それでも幼い感情が吐ききれず、肺が苦しい。顔を恐る恐る上げ、乾いた唇で、渇ききった喉で掠れた声を捻り出す。
「助けてくださり、ありがとうございました」
心底そう思っているとは思えなくとも、言うことでそう思いたかった。決まっていた未来だったのだから、そうなる運命だったのだから。
ふっと耀哉は優しく微笑んだ。
「私は……予知しただけであって、心陽や咲希を救ったのは……杏寿郎だよ。勿論、あの子には我々の関係を、一切知らせていない……」
あの夜、彼は屈託のない笑顔と堂々とした声で当然の行いをしたまでだと言っていた。確かに、心陽の父親は子供だけでも生き延びさせようとしていた。煉獄は父を、鬼となった父を撥ね飛ばしたが心陽と咲希は無事だった。結果的に父の最期の望み通り、煉獄に救ってもらったのだ。
勿論煉獄でなければ寄る辺のない二人は、孤独感と絶望感を抱きながら生きることになっていただろう。そういう意味でも、きっと救われたのだ。
「……さて、話を戻そう。あまね、きっとこの子も喉が、渇いているだろうから……茶を注いで欲しい」
「かしこまりました。ですが、お身体の支えは……」
「少しの間なら、大丈夫だよ……。ありがとう……」
耀哉はあまねが茶の準備で部屋を出たのを包帯が巻かれた目で見送ると、心陽に向き直る。少し緩んだ包帯からは、爛れた皮膚と白濁した紫がかった瞳が覗いている。
「どこかで……鬼舞辻に出遭ったことは、無いかい?」
「キブツジ?」
「鬼舞辻、無惨……我々が産み堕としてしまった、鬼の始祖に…………」
「最初の鬼が、産屋敷家に?」
静寂の中、重苦しい響きが部屋に満ちた。驚きを隠せないことに加え、急な新しい情報だらけで視界がぐるぐると回りそうだった。その鬼がどのような者かは分からない。しかし確実に遭っていないだろうとは思い、ありませんとだけ言った。まさか鬼の起源が紛れもない鬼殺隊の最高権力者の先祖だとは!誰が考えるのだろうか。
「朔間は……呪いが完全に消えたらしい、という随分前の言われ……だったけれど、心陽にはそれが、ある。間違いなく……君は、どこかしらで彼に出遭い…………眠っていた呪いを、呼び覚ましてしまったんだ……」
