六話 秒針に棘
「代々朔間の一族は毎晩月を見るんだ」
黒髪の男性がそう言って月を指差す。そして、私に優しい瞳で笑いかけた。林檎みたいな紅だった。見つめているとなんだか懐かしく感じ、見とれてしまった。
「ご覧。今夜は満月だ。満月が最も凶日……悪い日だとされている」
へぇ、と呟いて空を仰ぐ。確かに、欠けたところが一つもない綺麗な円が浮かび上がっていた。どうして満月は美しいのに悪いのだろう……と言おうとするよりも先に、それはと彼が言う。
「月が満ちるほど悪い "気" が増えるという言われがあるんだよ」
欠けたら、と言おうとしてもまたもや遮られる。
「……変わらない。けれど、父さん達がついているから大丈夫だ」
────夢を見た。いやこれは、幼い時の記憶だ。父が家の決まりを教えてくれたときの。ぼんやりとそう考えながら起き上がる。病室ではなく、自室で寝ていた。
心陽は入隊後も癖で月を眺めていたが、とっくに満月の意味など忘れていた。忘れたとしても、子供のときの
あれ以来派手な喀血はしていないが、任務にはまだ出れていない。任務というよりも今は柱による猛特訓が行われている最中だ。心陽も一日に数時間は甘露寺邸まで出向き、柔軟稽古に参加している。他の隊士は踊らされていたり、謎の衣装を身に着けていたりしたのが少々滑稽だったが……。気晴らしにはなった。
体調が安定していれば様々な柱のもとで稽古できたが、走り込みなどできそうにもない。
(素振りくらいならやってもいいだろう。週末に……)
『朔間心陽さん、こんにちは。』
「えっ」
突然窓辺にいた鎹鴉が流暢な言葉を話し出して思わず後退りした。そのカラスは首におしゃれな紫色の
『お忙しい所大変恐縮ですが、産屋敷耀哉様がお呼びです。』
────ウブヤシキ?
……聞いたことがある。だいぶ前、煉獄槇寿郎から似たような音の響きを聞いた。彼はウブヤシキを「お館様」と言っていた。ああ、この組織……鬼殺隊の最高権力者なのか。ではなぜ、突然心陽を呼んだのか?直接「お館様」を見た者は柱しかいないと噂では伺ったが……。
「……分かりました。お伝えくださりありがとうございます」
『では、準備ができましたらお呼びください。産屋敷邸まで御案内いたします』
