六話 秒針に棘





数週間後、葬儀を執り行い千寿郎に別れを告げた。なんとなく、もうここには来ないような気がした。

どれだけ人がいなくなっても、世の中は目まぐるしくまわり続けている。針はカチカチと音を立ててぐるりと周る。でも、もうそれにも慣れようと適応しようと心陽の躰はしていた。


「因幡!おれが正面から斬る!!オマエはちょこまか動いとけ!」

「ごめんなさい、もう斬った」


随分成長したものだ、と自分でも思う。言われなくとも動いて頸は撥ねる。間合いがどれだけ不利だろうと頸を撥ねる。それを徹底していた。誰かに守られることはもうないと理解していた。


「はァ〜。にしても竈門、だっけ?アイツ音柱様の任務に呼ばれたんだとよ。引っ張りだこだよなァ」

「そうなんだ」

「オマエ、仲良さそうだったなのに知らないのかよ」


(情を入れたら別れたときに辛いだろう)


そう思うも無言で歩く。炭治郎は優しかった。だからあの人を思い出してしまうのだ。
朝方、蝶屋敷に帰って朝食の仕度をしているアオイに出会った。アオイはてきぱきと仕事をしながら、心陽におかえりなさい、と言った。そういえば今日は健康診断だったかなと思いながら返事をした。


「問題なさそうですね。十分健康と言えます」

「ありがとうございます」

「万が一不調をきたしたらすぐ来てくださいね」


胡蝶は診断結果を手渡した。
ときが経つのは信じられないくらいはやい。もう、あの日から何ヶ月も経ってしまった。想いを絶ったはずなのに、忘れられるわけがなかった。年月が経っても、この想いは失えなかった。


(夢でも会えないのに、どうしようもないよな)


いつからかは覚えていない、だが確かに愛していた。忘れられないことをどうしようもない、と受け入れられることが不思議だ。甘露寺に話したら分かることなのだろうか、いやこの想いは誰にも話さないでおこう。
誰でもないあの人だけ、知っていれば良い。


櫛も指環も世の中の年頃の娘が欲しがるものらしいとあとで知った。あの人を亡くす前にアオイから伺ったものだ。誰から貰ったの、誰なのと聞かれたがここで言ってしまっては自惚れてしまいそうで言えなかった。


「……っ」


喉が乾燥しているのかゲホゲホと咽る。いつもより軋んで肺が、いたい。
脊髄が危険信号を送っている気がした。


(……胡蝶様のところへ行こう)




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