六話 秒針に棘




道場に向かっていると、見覚えのある緑の髪の毛の少年と出会った。少年は紫の瞳を僅かに丸めた後、口角をにんまりあげた。


「よ、久しぶりだな。オマエ、あン頃よか強くなったのか?」


頑張って考えたような棒読みにも近い言い方だった。なんとなく景は気まずそうに目線をちらちら泳がせながらあー……と言う。右手でわしわしと頭を掻いて何かを考えているようだった。


「任務中に聞いたんだ。……まァ、色々。おれだってついこの間初めて会ったばっかだったしさ……。まだ信じらんねぇけど……」


微妙な沈黙を打ち破るかのように数人の隊士の声が聞こえてきた。流行りの歌なのか分からないが、何かを大合唱していた。
人がいた、恥ずかしいなどと大笑いしているのを横目に心陽が口を開いた。


「もうその話はしなくていい。もうそれに区切りをつけたいから、いい。」

「……はッ、そーかよ。おれなりの気遣いのつもりだったんだけどな!」


フン、とそっぽを向き、心陽とすれ違いざまに歩き出す。景はそれでも言い足りないような背中で何度か立ち止まったものの、何も言わず通り過ぎていった。
景を見送った後、心陽も道場に向けて歩き出した。数人の隊士がこの様子を見、声を押し殺して他の誰にも聞こえない会話をし始めた。


「なぁ、さっき見たの継子だったよな?」

「剥奪されたらしいけどな」

「……。」








道場で稽古をしていると、誰かの鎹鴉が啄木鳥のように戸を叩いて鳴いていることに気がついた。


「ニニギか。そんなに慌ててどうした?」

『煉獄千寿郎ヨリクノコトト文ヲ承ッタ!!カァァァ!!早ク読ミナサイ!!早ク!!!』


内心では読みたくないとも思いつつ、木刀を床に置いて手紙を受け取った。


(……。カマドくんはもう家に行ったのか。)


綺麗な文字を目で追うと同時にそう考える。



──煉獄家。両親がいなくなり、長い間居候させて貰っていた邸宅。立派な門があり、庭があり、広すぎる屋敷があった。何不自由無さそうに見える武家屋敷のように最初は思えた。
初日で煉獄槇寿郎に怒鳴られるまでは。


弟の千寿郎は見知らぬ人間でも笑顔で出迎えてくれた。しかし、父親の方は違った。心陽と咲希に向かってではなく、杏寿郎に向けて怒鳴り散らかした。
本当に血の繋がった親子なのかと疑った。しかし親子共々、橙に穂先が紅の頭髪をしていたためすぐに血縁関係があると分かった。

最後は勝手にしろ、と言われなんとか居候させて貰うことになったのだが……。思い出しても溜息しか出ない。


「ニニギ、今日中には行くと連絡して」

『カァァァ!!!』



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