六話 秒針に棘
某社新聞 朝刊
『列車脱線事故 死亡人無し』
某日新橋始發の列車脱線事故での死亡者はをらず、重傷者も數名に留まつた。列車内の損傷は激しく、線路の復舊作業も數月かかる見込みである。死亡者が零名に留まつた詳細は、未だ明らかになつてはゐなゐが──……
ビリビリとそれを何度も引き裂くなり、寝台の外へ放り投げた。換気のために開けていた窓から乾いた風が吹き込み、破片が宙を舞っている。そんなことも気に留めず、布団を頭から被って丸くなる。
元から大した負傷をしていなかった心陽は療養する必要も無いのに、蝶屋敷の病室で籠っていたのだ。閉じきって冷えた戸を叩く音が響いた。
「失礼します」
体調はまだよくなっていないのか、だとか食欲はあるかなどありきたりなことを投げかけられ、終始無言を貫く。
「今日、煉獄さんの屋敷を訪ねようと思ったんだよ。だから心陽のことも誘いに来たんだ。」
「……」
「ほら、俺はご家族とは初対面だけど心陽は面識があるんだろう?だったら尚更来てもらった方が……。」
「行かない。」
「えっ?」
理由を詮索しないようにわざと炭治郎は話を逸らそうとしたが、心陽はあそこの父親が苦手なんだと呟いた。
「千くん……弟さんはとてもいい子だから。その子に声を掛ければ中にあがれる。」
もっとも、あの酒臭くて捻くれた男は部屋に籠りきりで外に出ていないだろうが。深呼吸し、炭治郎を一瞥する。
「……失礼な態度を取ってごめんなさい」
「そんなことない!すぐに気持ちの整理がつかないのは当たり前だから。あっ、そういえば」
ごそごそと持っていた袋から何かを取り出した。
「これ、伊之助にあげたらすごく喜んでたんだ。心陽の口にもきっと合うと思う!ここに置いておくから」
伊之助が比較対象なのはよく理解できないが、彼なりの気遣いなのだろうとすぐに解った。炭治郎が部屋から出て少し間を置いて、それを見た。細かい木の実が、焼かれた小麦の生地で覆われた菓子だった。
一口食べてみると、幼い頃にも食べた味に似ていた。……甘かった。最近飲んでいる錠剤とはまるで違う。
(久々に身体でも動かそう)
気怠げな上半身を持ち上げ、寝台から降りた。散り散りになった紙の破片を拾い上げては
なんとなく窓辺を見遣ると、櫛と指環が静かに置いてあった。日に照らされてあたたかく輝いている。だが、それを手にすることも無く部屋を出ていった。
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