五話 灼かれた心臓は






土埃がひどく、何も見えない。大丈夫だ、大丈夫なんだと震える手を握りしめて祈るしかない。先ほど視えたものは全て嘘で、現実じゃないんだと必死で言い聞かせる。
僅かに、姿が見えた。


「師範!!!!」


枯れた声で天を切り裂くほどの大声で哭いた。


────人間の胴が拳で串刺しにされることが現実になるなんて、誰が思うのだろう。そんなものを視ても、単なる悪い夢だったと笑いたかったのに。


煉獄は血を吐いた。当たり前だろう、もう身体はどこもかしこも破れて血まみれなのだから。


「死ぬ……!!死んでしまうぞ杏寿郎!!鬼になれ!!鬼になると言え!!お前は選ばれし強き者なのだ!!!」


それでも煉獄は歯を食いしばり、刃を鬼の頸に充てがう。猗窩座は目を見開き、ひどく動揺しているようだった。だが、すかさず猗窩座も手を出した。
煉獄は、すぐさま左手でそれを止めた。身体は辛いだろうに、彼は頸を斬り落とす目的のためだけに動き続けていた。


(このまま動き続けると、持たない。身体が、師範の命が……)


煉獄と猗窩座は叫びながらお互いの目的を果たそうと必死だった。そして、────煉獄の紅の日輪刀が、深く上弦の参の頸に刻まれた!!


心陽はもう使えないはずの日輪刀を強く握りしめ、煉獄の元へ走った。ちょうど同じ頃、炭治郎も日輪刀を携え駆けていった。

そして、伊之助が呼吸法を使おうとした際、猗窩座は逃げようと地を踏みしめ空中に舞った。そのせいで煉獄の刀は無理矢理に折られ、猗窩座の頸は刀身が刺さったままだ。それをまだ逃すまいと炭治郎は追いかける。

胸上だけの浅い呼吸をし、心陽は跪いて煉獄に話しかけた。


「師範、師範!!私です、心陽です、分かりますか?」


返事をするように煉獄は瞬きをし、心陽はその様子を見て口をつぐんだ。

……鬼は鬼殺隊から逃げているのではなく、もうじき昇るであろう太陽の光から必死で逃げていた。それに向けて炭治郎は思い切り刀を投げ、────見事猗窩座の背中から胸を穿った!!


「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!!」


心陽は炭治郎の言葉にひどく胸を締め付けた。


「煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!!お前の負けだ!!煉獄さんの、勝ちだ!!」


本当に、そのとおりだ。この少年にはいつも先を越されてしまう。だがもう今の心陽には炭治郎を羨望する気力も無く、ただ共感することしかできなかった。
うわああああ、と炭治郎の泣いているのが聞こえる。心陽はまだ具体的な実感が湧かず、傍で座りながら、もうまもなくの身体を震える手で支えることしかできなかった。


「もうそんなに叫ぶんじゃない。竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ。……こっちにおいで、最後に少し話をしよう」




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