五話 灼かれた心臓は
「師範?」
一瞬眉をピクリと動かすが、振り向きもせず殴り込み続ける。そしてああ、と何か分かったかのような声を漏らした。
「そうか、杏寿郎の弟子なのか!こんなに弱い弟子を持った杏寿郎が不憫でならない!!」
猗窩座がそう吐き捨て、笑いながら殴り込む。煉獄は至って冷静にその攻撃を日輪刀で返し続ける。
「君の強さへの執着が理解できない。」
猗窩座はそれに対して微かに笑って蹴りを連発で入れた。
重傷の炭治郎が動き出しそうになっているのを見るなり、心陽が大声で止める。
「カマドくん、行ったところで何ができるの!?」
「煉獄さんの応援に……ぅッ」
「動くな!!傷が開いたら致命傷になるぞ!!待機命令!!」
普段からは想像もつかぬものすごい剣幕に炭治郎も驚き、動きをぴたりと止めた。彼もようやくことを理解できたようだ。
自分がこの領域に入ってしまっては死ぬ、ということを。
必死にこの二人の動きを目で追うことしか自分たちにはできないのだ。死ぬのが怖いわけではない。柱の意志なのだ。後輩の命を捨てることは彼には、いや柱は皆できない。
「弱者に構うな杏寿郎!!全力を出せ、俺に集中しろ!!」
────破壊殺・乱式!!!
────炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!!!
二人が地面を蹴り、凄まじい勢いでぶつかりあった。地面は振動で揺れ、目が眩んだ。
どちらがどちらに致命傷を負わせたのか。何も分からなかった。ただ、空気が変わったのは理解できた。
(……!!!)
一瞬にして息が止まった。心臓も、脳も全ての器官が止まった。
心陽の目に映ったのは、師の、煉獄の
左目を失い、肉体の多くの部位を損傷した姿だった。
脳天からも血がだくだくと流れており、ゆっくりと呼吸をするので精一杯の姿だった。
(師範、師範……!!)
「生身を削る思いで戦ったとしても、全て無駄なんだよ杏寿郎。お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も、既に完治してしまった。」
確かに、胸部にあった刀傷はもう綺麗に治っていた。猗窩座は諭すようで、冷たく軽蔑したような眼差しを向ける。
「どう足掻いても、鬼には勝てない。」
この言葉と同時に、心陽はひどい頭痛に襲われた。頭を両手で抱えるとなにかがぼんやりと視えた。
徐々にそれははっきりと輪郭を描き、それを凝視するなりわなわなと震え出した。
視えた、視えてしまったのだ。────この戦いの顛末が。
「し、師範。嘘、嘘だと言ってください、そうでなければ私、私……。」
震えた唇では叫ぶこともできず、ただ呟くことしかできなかった。だからか、いやそうでなくとも彼はそうするのだろう。ごうごうとした炎を纏い、右目をしかと見開いた。
その右目には、決意がこもっていた。
「俺は、俺の責務を全うする!!ここにいる者は、誰も死なせない!!」
────炎の呼吸 奥義
ビリビリとした空気感と威圧感を感じた猗窩座は、目を大きくさせながら感嘆した。そして、狂気じみた笑いを見せた。
「やはりお前は鬼になれ杏寿郎!!そして、俺と永遠に戦い続けよう!!」
────術式展開
お互いが、お互いを睨み合って風を切る。もう誰にも止められなかった。
────玖ノ型 煉獄
────破壊殺・滅式
