五話 灼かれた心臓は
「お前も鬼にならないか?」
心陽は背筋が凍る思いがした。揶揄うわけではなく、真面目にこの鬼は言っているのだ。
煉獄はならない、とだけ言った。
「見ればわかる。お前の強さ……柱だな?その闘気、練り上げられている。────至高の領域に近い。」
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ。」
「俺は猗窩座。杏寿郎、なぜお前が至高の領域に踏み入れないのか教えてやろう」
猗窩座は今までの飄々とした表情から打って変わって鋭い目つきで煉獄を見た。そして、煉獄に向けて指差す。
「人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ。」
鬼になろう、そうすれば何百年でも鍛錬できる、強くなれる、と猗窩座は続けた。
(この鬼は異常だ)
こんなにも強くてよく話し、馴れ馴れしい鬼は
煉獄は口を開いた。
「────老いることも、死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく、尊いのだ。強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない。」
その言葉に猗窩座はぴくりと反応した。また彼は、この少年は弱くないと言った。煉獄の語気は強く、自信に満ちていた。
「何度でも言おう。君と俺では価値基準が違う。俺は如何なる理由があろうとも、鬼にならない。」
鬼はそうか、とだけ返し体勢を整える。
────術式展開 破壊殺・羅針
「鬼にならないのなら、殺す」
猗窩座は狂ったように笑いながら地を蹴った。
煉獄もすかさず猗窩座の攻撃を捉え、構える。
────炎の呼吸 壱ノ型 不知火
お互いの技がぶつかり合い、辺り一面に轟音が響いた。そして、猗窩座はまた飛び跳ねて空中から煉獄を見下ろす。
「今まで殺してきた柱たちに炎はいなかったな。そして、俺の誘いに頷く者もなかった!」
狂乱めいた少年のように明るい声色で語りかける。同じ武の道を極めるものとして理解しかねる、と煉獄に攻撃を続けながら言った。また、選ばれたものしか鬼になれないとも言った。
「素晴らしき才能を持つ者が、醜く衰えていく。俺はつらい。耐えられない!死んでくれ、杏寿郎!!若く強いまま」
────破壊殺・空式
猗窩座は鬼故か、身体能力が異常なほど高い。空中で回転しながら拳や蹴りを入れる。
────炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり
すかさず煉獄も猗窩座の技を防御した。心陽はなんとか二人のやり取りを見守っていたが、ひっかかる点があった。
(この距離では確実に呼吸法が扱いにくい!間合いが遠すぎる)
「師範!!」
ちょうど同時に煉獄は間合いを詰める。心陽自身、心臓が飛び出そうなほど緊張している。
刀さえ折れていなければ……。
