五話 灼かれた心臓は
(何が起きた?)
竜巻のように舞い上がる砂の中に、こちらを見る人影を見つけた。
青年くらいの外見に、腕上半身そして顔に入れ墨がある。これは間違いなく只者、いや並大抵の鬼でない。
どんどん脈が早くなるのがわかる。瞳に刻まれた漢字と数字。
────上弦の参だと、分かってしまったからだ。
心陽は急いで鬼の頸に目掛けて走る。
────炎の呼吸 壱ノ型 不知火
(再生した!?)
間合いが足りず、斬ったのはたったの右手だったにしても、再生速度が今までの鬼とは比にならない具合で早い。
すぐさま体勢を整え、迎撃に備えようとするも僅かに遅れ、鬼の手刀が降り注いでくる。速い、速すぎる!!一度でも遅れてしまったら致命傷になりかねない体捌きだ。
一瞬挙動が鬼よりも遅くなってしまった。まずい!と思い、反射的に鋒を拳に向けて攻撃を跳ね返した。だが、
「っ!!」
折れた。折れてしまった。紅の日輪刀が。上弦、なんて強い筋力なんだ。
徐々に精気を失い、ついに刀身は月光に照らされても光を反射しなくなった。
鬼は心陽に用無しとおぼえたのか、炭治郎に向かって走り出す。
そして、襲いかかろうとしたそのとき。
────炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天
煉獄が怪我をして咄嗟に動けない炭治郎を庇い、左手首を落とした。
鬼は斬り落とされた腕でさえも瞬時に再生させる。
「いい刀だ。すぐに折れたやつとは比にならん。」
そう放つと傷口をじゅるりと舐め、元の皮膚に戻した。
「あれは刀そのものの問題だろう。技術を卑下するのは感心しないな。」
煉獄はすっぱりと応えた。鬼はそれをうんともすんとも言わず眺めている。
「それに、なぜ手負いの者から狙うのか理解できない。」
「話の邪魔になると思った。俺とお前の」
しれっと当たり前のことのように鬼が言うのに対して、煉獄は眉をひそめた。
「君と俺が何の話をする?初対面だが、俺はすでに君のことが嫌いだ。」
「そうか」
独特の緊張感が流れている。蟻ですらも息を潜めるくらい、殺伐としている。心陽と炭治郎はこの不調和な会話を一言でも逃さぬよう、必死に聞いていた。
「俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫酸が走る。」
「俺と君とでは、物ごとの価値基準がちがうようだ。」
「そうか。……では、素晴らしい提案をしよう。」
鬼は失望するでも、躍起になるわけでもなかった。おそらく、鬼殺隊の隊士、柱はそれ以上に耳にしたくもないだろう言葉を吐いた。
