五話 灼かれた心臓は





土埃が立ち込める大地に足をつけ、走って煉獄のもとへ向かう。


(乗客の命は全員無事。重傷者はいない。というのを伝えなければ)


それと、炭治郎には労いの言葉をかけて。笑顔でありがとう、と言わなければ。

……こうすれば、少しは先輩の隊士らしいだろうか。今までは誰にも言えなかったけれど、今回ばかりは言ってみたいと思った。本当に彼はよくやってくれたと思う。

まずは、煉獄に乗客のことを伝えてそれから―──……


「うむ、止血できたな」


すぐそこまで出ていた言葉を押し込み、無理やり飲んだ。じっとりとしたものが背中だけでなく神経にも伝う。


「呼吸を極めれば、様々なことができるようになる。」


呆然と突っ立って状況を眺めることしかできないことに無力感さえ感じてくる。
これは柱から隊士へのただの助言だ。そんなことは既に分かりきっている。分かっているのに、受け入れがたかった。自分だって散々柱から学んで吸収してこんなに成長できたのだ。それなのに。


「心陽!良かった、無事だったんだな」


大きな怪我も無さそうで本当に良かった、と笑って炭治郎は言った。だが、心陽は知っている。彼のほうがよっぽど重傷であると。呼吸は通常よりしづらそうで、楽そうには見えない。

……この人は自分よりも他人の心配をする。負け惜しみなのかは分からないが、かえってその態度がじとじとしたものを生み出していくのだ。
炭治郎のやさしい赤の瞳が心陽を見つめる。


「乗客の死亡者及び重傷者はいませんでした。」

「そうか。乗客を集め、連結を断ち切ったのは機転の効く判断だったな!」

「師範から今までの鍛錬や任務で、多くのことを学べたおかげです。それに、数多くの乗客の命を守ってくださりありがとうございます。」


なぜこうも話したくないときにべらべらと口が回るのか。
あのときもそうだ。この人と花火を見たときも、心陽は饒舌だった。

考えを遮るように夜空を見上げる。少し欠けた下弦だった。


「では竈門少年、君はもう無理せず……」



────ドォン!!!



一際大きい地響きが辺りを覆った。





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