四話 微笑む郷愁
「あああああああ!!!!!」
叫び声を発しながら席から勢いよく立ち上がった。帰ってきた、現実に。揺れる車内のせいで身体がよろける。
自分以外は席を外していた。先に夢から醒めたのだろう。
はーっと深く息を吐くと同時に、自分の腕に解かれた紐があることに気がついた。席の背後には心陽と同じくらいの少年少女が転がっていた。
直後、禰豆子が一般客に縛られた紐を燃やしていることを知り、ありがとうと一言放つ。
夢から抜けきっていないような倦怠感が気持ち悪い。目元を拭って頬を両手で叩いた。
(危ない!)
視界の隅からうねるものが視えた。
瞬時に紅の刀身を抜き、乗客に向かう魔の手を薙ぐ。
(再生しているのか?それとも、単に数が多い?)
周りを見渡すと、多くの紫の蠢きが跋扈していると理解できた。
残らず斬るしかない、と大きく一歩を踏み込む。
──炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり
(しまった!!)
胴が巻かれたのだ。それを切り落とそうと右腕を振り上げるも、今度はそちらにも指が纏わりつく。
──だが、迷わず刃先を身体に向け、思い切り肩から引き裂く。そのまま力尽くで胴の方まで持って行き貫いた!
そのまま駆けていき、勢いのままに扉を蹴破る。
「師範!」
金色に煌めく頭髪が見えた。煉獄もすぐにこちらを認識したようだった。
「目覚めたのか!前方の車両は竈門少年たちに任せている!」
「はい」
煉獄から指示を出される前に口を開く。
「私は乗客の保護を最優先にします」
「うむ!良い判断だ!!」
「前方車両の助太刀をしてきます」
助けた乗客の多くからは感謝を述べられた。中には、悪鬼を殺したいと泣きながら懇願する者もあった。鬼殺の道を勧めはしなかったが、自分が後悔のする選択をしないようにとだけ言っておいた。
乗客を後方の車両に案内しながら守るのはとても苦労した。距離を間違えれば鬼ではなく人間を傷つけてしまう。
煉獄も、あのとき自分と同じようなことを考えていたのだろうか。
鬼だとは全く思いもしなかった父の頸が宙に舞ったのは、今でも鮮明に思い出せる。
──それなのに、まんまと夢にかかった。頭がくっついていて、いつも通り話しかけてくることが普通と思ってしまっていた。
しあわせな日常なんて既に途切れてしまっているのに。
(本当に、癪に障る鬼だ。)
