一話 日明、月光と
「遅くなってしまったが、入隊祝いの羽織だ!」
白無地の羽織がそっと畳まれていた。若干緊張と喜びで震えた手で羽織を広げると、甘露寺のものとは違うと分かった。
「どれ、俺が着付けてやろう」
「お願いします」
「うむ!」
丈は尻が隠れるかどうかほどの長さだ。煉獄は金具らしきものを取り出す。
──ばちん。
羽織の左右の裾に留め具を付けられた。金色がキラキラと輝いて綺麗だった。留め具の模様も凝っていてとても美しい。
「ありがとうございます」
「これからも頑張ろう!!」
「はい」
「よし!ついてこい!」
(師範と手合わせするなんて何時ぶりだろう)
稽古用の木刀を手にしてそんなことをぼんやりと考える。心陽は先程までいた蝶屋敷の道場に戻っていた。甘露寺に稽古を半ば強制でつけてもらっているくらいだ。それも柔軟の。だからほぼ最近は実際の任務でしか煉獄の太刀筋を見る機会がない。
「よろしく頼む!」
「よろしくお願い致します」
いつ相手が間合いに入ってくるか分からない。だから、礼をするなりすぐに構える。
互いに刃を向き合い、対峙し合う。呼吸がしづらい。緊張しているのだろうか。
心陽は煉獄の首に目掛けて木刀を振るった。
「容赦なくやらせてもらうぞ」
心陽の一撃を己の木刀で捉え、隙をつく。
だが、心陽も煉獄の反撃を防ぎ、その反動で間合いを作る。
またお互い木刀を振るう。それの繰り返しだ。
つまり、この二人は鍔迫り合いを繰り広げていた。
「なかなかの腕前になったな、心陽!!」
「ありがとうございます、師範」
対峙していると言えども、己の師が故に心の余裕はある。斬り合いではなく、稽古なのだから。
(懐かしい心地がするな)
初めて稽古をしてもらったときは手が痺れて、防御に必死になっているうちに木刀を落としてしまった。二度目は反撃しようとしたら弾き飛ばされた。
また、何度目かのときは……。
