一話 日明、月光と





景のことを思い出すたびに苛々するのだ。風柱がどのようなものかは知らないが、あれを飼いならしているということは相当の善人か同じ類の者だろう。忘れようとしても思い出してしまうことほど面倒なものはない。
……更にこのあと不運が襲いかかってくることになることになるのだが。







「大変です!咲希さんがいなくなりました!!」

「これからお夕飯なんですけれど、どうしても見つからなくって」

「それに、誰も何も言伝をもらっていないんです……」


「ごめんなさい、ごめんなさい」と三人の少女が心陽の膝下で泣きじゃくっている。泣いて謝るのは、彼女たち自身の家族が鬼に襲われた経験があるからなのだろう。咲希に大事があるかもしれないとは口にしないが、そういう意味合いで間違いなかった。

考える暇など無い。ただ、守るべきものを守るために動くしか無いのだ。


ゆっくりと腰を屈めて、安心してほしいと三人には話した。咲希にどんな理由があって屋敷を飛び出したかは全く持って不明だが、確実にこの三人が気に病むことはない。
など言いつつ、心は不安で不安で仕方がないのだが。


(日が西に傾いている。時間の問題だ)


じきに日は沈む。こちらの考えなどお構い無しに回り続ける。だが、今はそれに抗ってでも掴み取らなければならぬものがある。
一種の不安のせいなのだろうか、覚束ない手で日輪刀を取り、夜に飛び込んでいった。






ギラギラ眩しくて仕方がない太陽を何度も振り返っては大丈夫だ、と言い聞かせる。


(だが、どこに行ったんだ?)


疑問が頭によぎった。血の気が引く心地さえした。

──もし、真逆の方向だったら?曲がり角を間違えていたら?


徐々に喉が渇いていくのが分かる。眼の前なんかは白く点滅して見えてくる。


もしかしたら。もしかしたらあそこかもしれない。それに賭けるしか今はない。ただ、今は信じて進むしか無い。それが無駄だろうとなんだろうと。















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