一話 日明、月光と
新たな任務が入った。ニニギから聞くに、柱無しの任務であるという。心陽はあの後煉獄から鍵くらい掛けたか確認しなさい、と言われた。勿論すぐ謝ったが……。
数週間経た今でも、鬼狩りが上手くいかない。怪我をして蝶屋敷に収容された一般隊士からも苦情が来ているという噂だ。厳密に言うと、会話を盗み聞きしてしまったアオイから伺ったものだが。
洗濯物を干しているからか、妙に湿気を孕んだ空気が気持ち悪い。
「アンタ最近、腕ガ落チタッテ言ワレテルラシイワネ!!」
「実際そうなのだから、仕方ない。」
「マサカ恋愛ニ現ヲ抜カシテルワケデハナイノヨネ!?」
思わず吹き出した。飲んでいた茶が隊服を濡らす。口元の端を上げて鴉に向き直る。きっと、冗談を茶化すように笑ってみせたはずだ。
「まさか。」
「ソレナラ大丈夫ネ!!」
自分の感情任せで、任務をしっかりこなせないのは継子として恥でしかない。縁側から立ち上がり、庭へ向かって歩いていると見慣れない子供が立っていた。
深緑色の髪で、髪は長さが部分によって適当。長いものは無造作に結んでいる。その子供が、こちらに気づくなり「オマエ、炎柱継子がどこにいるか知ってるか?」と聞いてきた。落ち着いた紫色の瞳が心陽を映す。
「私です。何か用ですか?」
大真面目に答えたはずにも関わらず、ぶはーっと笑われた。
「へェ、アンタが。随分弱っちそうじゃねぇか」
硬直して少年を見下ろす。言い返せない。自分の方が年も立場も上なのに。何も言えなかった。
「おれは幟酉景。風柱の弟子だ。間違っても継子とは言うなよ?そこだけは譲れねぇんだ」
「はぁ……。それでなんの用ですか。」
「オマエとの共同任務って聞いたんだよ。炎柱の継子だから挨拶しに行けって師匠から言われたんだ。……けど、こりゃァ期待外れだな。」
心陽は関わりたくない子供と関わりを持ってしまったと内心思っていた。今までは多くの隊士を一人でまとめるくらいのことはできていた。だが、この子供はどう考えても自分に従うような性格ではない。
「ま、鬼なんて所詮おれ一人でも倒せる雑魚。オマエは居ても居なくても変わらねぇ。せいぜい腕や胴を斬り落とすくらいか?」
「私だってれっきとした継子です。それなりにできます。」
「大して強くもねぇのに継子を騙るなよ、因幡野郎!!」
「朔間です!」
煉獄が認めてくれたことを否定されることが嫌で夢中になっていたのだろう。子供相手に言い返してしまった。
(冷静になれ、何も良いことは生まれない)
「んじゃ、また数日後。それまでにせいぜい刃毀れでも磨いとけ」
