四話 微笑む郷愁




「師範、同行する隊士たちにも伝えておきました。」

「うむ、ご苦労だった!さぁ君も遠慮せず食べるといい。」


ずいずいと眼の前に、駅で買ったであろう弁当を押し付けられる。よく見ると、空席には空の弁当箱が山積みになっていた。


「私は大丈夫ですので、師範が召し上がってください。」

「あるだけ全部買った!!故に、数を気にする必要はない!」


(お茶と簡易的なおにぎりくらいしか売ってなかった気がするな……)


心陽が断った程度では、煉獄は気を落とさない。何度かこのやり取りをしたのち、少し間を開けるなり再びうまい、うまいと称え始めた。
本当においしいから是非食べて欲しい、という念押しにさえ心陽には聞こえていた。


(そういえば、あのときはすごく静かだったな。珍しく。)


足音がすぐ近くでする。どうやら彼らが来たらしかった。
横を見ると、うまいと唱え続ける姿に三人は圧倒されていた。


「心陽、煉獄さんっていつもこうなのか?」

「美味しいものを食べるとよくこうなるんです。」

「嘘でしょ!?ただの食いしん坊にしか見えねぇ……」


炭治郎が言葉を投げかける前に、心陽が話した。


「師範」


炭治郎は一瞬だけ、弦が強く張り詰めるような空気の重さに変わったことを察した。


「うむ!!溝口少年達、今日はよろしく頼んだぞ!!」

「俺は竈門です!俺、煉獄さんに聞きたいことがあって」

「そうか、どうした!」

「父が俺の幼い頃に──……」


心陽はこの二人の会話に途中から退屈さを覚え、眺めるのをやめた。
代わりに隣の木箱に目を移す。全く微動だにしないそれに生き物が入っているだなんて到底思うまい。


(毎日これを背負っているだなんて、大変だろうな。)


心陽がそんなことをぼんやりと考えていると、突然塞がれていた耳をこじ開けるかのような煉獄のはっきりした声が入ってきた。


「俺の継子になるといい、面倒を見てやろう!」


拍子抜けな声を出すところだった。思わず視線を煉獄の方へ返す。

……ばっちり目が合った。心陽は煉獄のこの言葉の意図に気づかぬまま、目線を反らして沈黙を続ける。
この二人のやり取りを聞いていると、なぜだかどうしようもなく「自分の師」ではなくなる気配がした。だから、聞いていられなかった。


「うおおおお!!!すげぇ、すげぇ!!!速ぇぇぇ」

「騒がないでください。他の方の迷惑です。それに、落ちたら死にます。」

「ほら〜!言われてるぞ伊之助、危ないだろ!!」

「関係ねぇ!!俺外に出て走るから!どっちが速いか競争する!!」


馬鹿にも程があるだろ!と善逸が言う。


「危険だぞ!いつ鬼が出てくるか分からないんだ!」


煉獄がきっぱり言い放った直後、鼓膜が破れるのではないかと思うほど善逸が絶叫した。
煉獄が言うに、乗客や隊士が消息を絶った。だから柱である自分が来た、と。

善逸が二度目の絶叫をしているうちに車掌に切符を見せ、切り込みを入れてもらった。



ぱちん、といい音がした。







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