三話 盈月花火
──とある日の蝶屋敷にて。
任務がない日は、孤児の面倒を見るのが心陽のもう一つの仕事だった。
正直、煉獄家は居心地があまり良いとは言えなかった。そこで、入隊を期に妹を蝶屋敷に預けるようになった。目も行き届くし、女の子が沢山いるならば話し相手もいるだろう、と思ったからだ。
千寿郎には申し訳ない気もしたが、千寿郎はむしろそこに入ることを勧めたのだ。……きっと、千寿郎もきまりが悪かったのだろう。
廊下を歩いていると、突然、大きな声が響いた。「炎柱継子の……」という言葉が聞こえたので、隠が誰かしらに何かを促したのだろう。
「こ、こんにちは!」
緑と黒の市松模様の羽織。額には痣。名前は確か──
「俺は、竈門炭治郎っていいます!」
花札のような耳飾りが揺れ、声にははっきりとした力がある。
(先日の蜘蛛の山で、鬼を連れていた隊士。……ただ、あのときは気を失っていたから、私のことは覚えていないはず。ここは「初対面」としておくのが無難かな。)
「初めまして。……師範から、貴方のことは伺っております。」
「あ、ああ……うん。よろしく、心陽さん!」
「こちらこそ。」
錯乱していたあの状態の彼では、冷静な判断力は見えなかったが──今、こうして話してみれば、悪い人ではなさそうである。
それに、明日には共に任務に就く仲間。たとえ「鬼を連れている」としても、信じたいと思う自分がいた。
「明日は、よろしくお願いするよ。……カマドくん。」
「ああ!一緒に頑張ろう!」
互いに握手を交わし、心陽は炭治郎とは真逆の方向へと歩き出した。
久々の己の師──煉獄杏寿郎との任務を心待ちにしながら。
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