一話 日明、月光と





「心陽!」

「やれます」


あれから何年経ただろうか。あの頃の自分では想像もつかぬほど、思考も体捌きも洗練されたものになった。

乾いた大地を踏みしめて頸に目掛けて跳ねた。空中で姿勢を整えるも、僅かに挙動が遅かった。
それは、すぐに心陽でも分かった。



──炎の呼吸 参ノ型 気炎万象



だが、左腕を切断することに成功した。異形の鬼は辺りに響くほどの唸り声をあげている。
着地してからすぐに構えて脚を斬り、胴を斬った。が、


「ぅぐっ……!!」


残った右腕で弾き飛ばされ地面に叩き落された。出血はしているものの、骨折はしていなかった。臓器も損傷していない。
今また同じことをやれば、取れる。

取れる、はずだった。











「まずまずの出来だ!!」



鬼を倒した直後に言われた。あのあとすぐに、すっぱりと頸を撥ねられた。驚くほどすっぱりと。あっさりと。

継子は柱の後継者故、柱と共同任務、即ち難関な鬼狩りを強いられる。だが、別段苦痛という訳でもなかった。怪我をすることだって、最初に比べたら段違いに減った。
だが、今の階級は庚。柱への道はまだまだ遠い。


(もっと師範の背中を見て頑張ろう。)


一年ほど煉獄家で稽古をした。日中、煉獄は居ない日が殆どだった。しかし、よく自分の面倒を見てくれたと思う。千寿郎から書道を教わったこともある。本当に優しくて温かい兄弟だった。







自主的に稽古をしている最中に、アオイがやってきた。話を聞くに、どうやら煉獄が来たらしかった。急いで身なりをある程度整え、走って煉獄の元へ向かう。

縁側に座っていた彼を見つけて会釈をする。



「稽古をしていたらしいな、偉い!」

「ありがとうございます」


まだ春になっておらず、少し肌寒い。そんな日なのに、この人はどこまでも熱いもので溢れていた。


「渡したいものがある!」

「はい」


煉獄が手に下げていた風呂敷を広げると、高級そうな箱が見えた。心陽がそれを覗き込む間にしゅるしゅる結び目がほどかれていく。






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