三話 盈月花火
浅草は色々なものがある。小物から洋物の家具まで世界中のすべてがそこにある気さえした。ショーウィンドウには煌びやかな
それに気を取られつつも、煉獄の隣に追いつこうとして心陽は足を進めた。
「着いたぞ!」
外見は明治の文明開化直後のような佇まいだ。人混みはそれほどないものの、なんとなく居心地が悪い。
思い込みだと思いたいが、ここには男女の仲の者が多いような気がした。
「何でも好きなものを選ぶといい!気になるものをすべて頼もう!!」
煉獄は席に着くなり、持ち前の明るさでそう言った。
「またここに来たら頼みますね。…そんなに一度には入りませんから。」
苦笑にも近いぎこちない笑顔で答えるなり、煉獄は、そうか!そうだな!と返した。
なんとなく気まずいまま注文をする。他の客は楽しそうに談笑しているにも関わらず、二人の間には沈黙の時間が続いていた。心陽は俯いて注文を待った。
数分後に、注文したハムカツと甘栗のモーニングが運ばれてきた。洋食を滅多に食べない心陽にとってはどれもが宝石のように見える。心陽は、味の想像もつかないごちそうを前にして目を輝かせた。
(師範のも美味しそうだなぁ、びぃふなんとかと、なんとかぜりぃ…。)
「美味しいか?」
「はい、美味しいです」
「ならば良かった!俺もうまい!!」
はにかみながら言う煉獄につられて心陽もわずかに微笑む。なんとなく、煉獄と共にいると心が和む。これは、入隊前に稽古をつけてもらっていた頃から変わらない。どれだけ稽古中は厳しくとも、決して煉獄は心陽を見捨てなかった。
最近は、妙な感情…無性にざわつく思いがする。今でも、する。不思議な浮ついた感情を覆うようにしてカツサンドを口に含ませる。周りの騒々しくて、しかし落ち着いた雰囲気と似ていた。珍しく、目の前の煉獄も鍛錬の最中とはまた異なる落ち着きを払っていた。
食べ終わり、煉獄に奢ってもらうことに戸惑いながらも喫茶店を後にした。
「美味しかったです。」
「ああ、うまかったな!!」
「…また、行きましょう。美味しかったですし」
「そうだな!」
それからというもの、浅草寺で雷門を見たり、仲見世通りで射的をしたり、雑貨屋を見たりしてあたかも「普通に」過ごした。
あっという間に時は流れ、既に宵は過ぎ去っていた。
「あの…射的、でしたっけ。ありがとうございます」
「構わない!欲しかったものが手に入ったようで何よりだ」
「はい、嬉しいです」
心陽は隊服にはには似つかわしくない玩具の指環をはめて、軽やかに歩く。黄昏時の光の結晶は炎のように温かく、水のように清らかで繊細な輝きを持っていた。
「これ、なんて言う石なんですか?」
「
(藍玉…。)
明るいところでは橙に、暗がりでは桃に身を置く、美しい石。偽物だということには少し寂しい気もしたが、それでも特別な輝きをしていた。
…。
ふと、遠くから何かが聞こえる。心陽には聴き馴染みのない不連続で、途切れがちな音。得体のしれないそれは、何だか不安を煽った。
「…花火が上がっているな。」
「花火?」
「ああ、色彩豊かな火薬が夜空に打ち上げられるものだ。だが、うむ!土手は遠いのでここからは見えないな。」
煉獄はそれに向かって歩き出した。心陽も慌てて人混みに揉まれつつ後を追う。どんどん先に突き進んでいく煉獄を視界から失わないようにして。
