三話 盈月花火
下弦の肆との戦いから数ヶ月後の夕刻。
「うわぁぁぁぁぁん!!!怪我は良くなったの?物理的にも、精神的にも骨が折れたって聞いてずっと心配だったよぉ!」
「か、甘露寺さん……お久しぶりです」
「動ける?」「具合は??」とずいずい顔を近づけて尋ねてくるものだから、心陽はしどろもどろに甘露寺に答える。
「今は順調に回復していて、体調も安定しています。」
「良かったぁ!!十二鬼月相手って本当に大変だよね、怖かったよね……。私も前足すくんじゃったの。」
甘露寺はにこにこと寝具に腰掛け、心陽の頭を撫でながら話を続ける。柔らかい指がとても心地よかった。
「そのときはね、銃を持った鬼だったの。爆撃が沢山あってね…………」
「あ!それでね」とより一層明るい声色で笑う。
「煉獄さんがね、とっても格好良かったわ!危険にさらされることなんてほとんど無くて、ずっと皆のことを第一に考えて動いてたの。でも当の本人はずっと危険な場所に身を置いてて。憧れちゃうよね!!素敵だわぁ〜!!」
(確かに、先日来てくださったときは待機命令を下されたし、伐ってくださったけど……)
なんだか心の靄が消えなかった。考えても無駄だと割り切って心陽は、甘露寺を見る。
「あっ!そういえば背負われて運ばれたんだよね、心陽ちゃん!!うふふ〜!一部始終は隠の皆様から伺ったわよ!すごい隠の方も焦ったんだって〜!」
「は、はぁ……」
身体がふわりと宙に浮く感覚。爽やかな匂い。手や腕の質感。様々なものがありありと思い出された。同時にそのときの恥ずかしさと嬉しさとの曖昧な感情が蘇ってきた。心陽は自然と縮こまって自分の身体を抱きしめていた。
「また何かあったら私のことも頼ってね!!」
甘露寺は手を振りながら部屋をあとにした。
苦い薬も残りの最後を飲み終え、蝶屋敷の稽古場へ向かう最中。
「心陽!」
「師範。」
「久しぶりだな!先程、甘露寺が見舞いに行ったと聞いた。俺もなかなか見舞えなくてすまない。」
「いえ、師範も任務がありますし、そちらを優先してくださって大丈夫です。」
(それに、私のために時間を割いてもらうのも申し訳ないし……。)
心の靄は無くなるどころか肥大化していくばかりで一向に無くなってくれない。出会ってから数年間のうちで経験したことのない感情であった。いや、今までの人生の中で、の方が正しいだろう。
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