二話 穢れの大地
(まだ遠いとは言えない。もっと遠くに…)
(足が限界だ。でも、もう少し…)
景と離れた際に訪れた村にまで辿り着き、廃屋に入り込む。
(絶対に百まで耐えてやる。)
今、心陽が聞こえているのは自らの心拍音と、僅かな呼吸音のみ。なるべく早く息を整え、あとは百を待つのみである。
十。
二十。
…五十。
残り半分だ。緊張で気がおかしくなりそうである。
八十。
八十七。
「八十八」
心臓が一層大きく動いた。
(嘘だ。)
「八十九」
(見つけられるはずが無い。鬼だとしても、こんなに早く…。)
「九十二」
「九十五」
「九十八」
目の前から声がする。だが、あと二つの辛抱だ。
「見ぃつけた」
絶望感だけが襲ってくる。声も涙も何も出せない。
「浴槽に隠れているとは。趣味が悪い。」
腕を掴まれ、地面に叩きつけられる。
「何か言ったらどうだ、鬼狩り。」
右脚で何度も背中を蹴られ、踏まれる。
人生で一度も感じたことのない屈辱感が込み上げてきた。
「…て。」
「ン?」
「刀を持たせて。」
「…は、は、はははは!!!はははははは!!!貴様が鬼狩りでいられる権利は無い!!!呆けた真似をするな。」
「いやだ……」
地面から顔を上げるとこの世の深淵を見たような心地になる切れ長の目と目が合った。
「絶望と屈辱と失意……!!やはり、人間のこの表情は堪らぬ。お前はあの緑のガキと違って、壊しがいがある。もっと見せろ……狂って、壊れて……んがッ!?」
心陽は刹那の隙を狙い、抜刀していたのだ。なんとか今ある力で鬼の胴を斬った。
「はッ、ははははは!!!まだ、やれるか! ならば堕ちる瞬間まで愉しませてもらおう!!」
──炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり
──血鬼術
「う゛っ!」
右腕と左脚が真逆の方向で折られ、挙句の果てに大勢の死骸がまとわりついてくる。
「その哀れな身のまま抗ってみせよ、鬼狩りィ!!」
──血鬼術 魄鬼夜業・廻
死骸の集合体で作られた巨人が心陽を摘み上げ、木に向かって投げ付ける。
森中に重低音が響き渡る。
「ぐぇッ……」
身体中の骨が割れているのは言うまでもないが、口から血が出ている。投げられた衝撃でどこかの臓器が損傷したのだ。
鬼は目を近づけ、その瞳を見せ付ける。
(文字が刻印されている…まさか)
「名乗りが遅れました。拙は下弦の肆、
──炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天
すかさず心陽も対応したが、
「ぐ、っあ゛あ゛あ゛!!!」
(もう身体が持たない…っ!!早く仕留めなければ)
「諦めろ、その姿で動かれると痛々しくて見ていられぬ!ははははは!!!」
──炎の呼吸 伍ノ型…
──炎虎!!!
