漫画

対海常戦を終えた数日後。

「突然だが転校生を紹介す
「黒子っちー!!」
「……黄瀬涼太君だ」

先生の言葉をぶった切り、キラキラした笑顔で黒子にぶんぶんと手を振ってアピールするモデル(笑)。
そんなモデ…書きにくいから黄瀬でいいや…黄瀬に無表情ながら若干戸惑った様子で返事をする黒子。

「黄瀬君?」
「来ちゃったっス☆」

シャラ☆と効果音が聞こえそうなウインク&ピース&ポージングに、教室内の女子生徒から黄色い声が鳴り響く。
そんな中、黒子の前の席で固まっていた火神がようやくツッコミを入れた。

「海常に帰れー!!」
「イヤっス!黒子っちとまたバスケするためにこうして転校までしたんスよ!?」
「知るか!いいから帰れ!」
「黒子っちも一緒に転校してくれたら海常に戻るっス!」
「一人で帰れ!!」
「一人はイヤっス!!」

この会話(?)を聞き、先生は二人に面識がある事を知った。

「なんだ、火神は黄瀬と知り合いなのか」
「え、あ、まあ、一応…?」
「なんで疑問形!?火神っちヒドイっス!」
「そうか、なら知り合いと席が近い方がいいだろう。黄瀬、火神の後ろの席に座りなさい」
「先生。火神君の後ろの席はボクの席です」

手を挙げ、自己主張をする黒子。

「!あ、黒子がいたな…なら黒子の後ろに机を持ってきなさい」
「はいっス!やったー!黒子っちの後ろの席!!どうしよう黒子っちの後ろの席とか黒子っちガン見し放題じゃないっスか授業に集中出来ないかもしれない…」

黄瀬のこの呟きはバッチリ先生の耳に届きました。

「ならやめるか。じゃあドア側の
「冗談っス!授業はマジメに受けるので黒子っちの後ろの席でいさせてください!」

先生の発言を聞き、全力で頭を下げる黄瀬。
その勢いにほんのり引きながら、先生は黄瀬の要求を了承する。

「あ、ああ。分かったから頭を上げなさい」

こうして黄瀬は、無事に黒子の後ろの席をゲットしましたとさ。
ちなみに、黄瀬があまりに黒子っち黒子っちうるさいので、クラスメイトの女子は早々に『このイケメンは観賞用』と悟った。
クラスメイトの女子が聡い子ばかりでよかったね!

放課後。

「…は?」
「だから、今日黄瀬が転校して来やがったんだよ!…です!」

バスケ部の部室にて、火神は先輩達に黄瀬の事を説明していた。
なんでオレが…と思いながら。
ちなみに同じ一年生な降旗、河原、福田は説明済みというか黄瀬にたまたま遭っていた。

「ちょっと待て、黄瀬って…あの、キセキの世代の黄瀬、か?」
「ああ、キセキの世代の黄瀬だ!…です!」
「マジ!?え、なんで!?」
「黒子っちと一緒にバスケをするためっス!」

小金井の問いに答えたのは、今まさに部室のドアを開き中に入って来た、件の黄瀬だった。

「「「「黄瀬!?」」」」
「はいっス!誠凛バスケ部の皆さん、今日からよろしくっス!」
「よろしくっス!じゃねえ!何しに来やがった!!」
「え、バスケに決まってるじゃないスか」
「そういう事じゃねえよ!」

黄瀬の食えない態度に、クラッチタイム突入☆しちゃいそうな日向。
そこに黒子がやんわり止めに入る。

「落ち着いてください、主将」
「っ黒子!いつ来た!?」
「黄瀬君と一緒に来ました」

黒子は黄瀬にせがまれて校内を案内してあげていた(報酬:バニラシェイク)。
が、すぐ部活に行きたい黒子はさっさと校内案内を終わらせ、二人で部室に来た。
したらば火神と先輩達が黄瀬の話をしていたもんだから、タイミングを見計らって黄瀬が突撃したっていう。

「黄瀬君の事なんて気にせず、早く着替えて部活を始めましょう」
「お、おう。そうだな」

黄瀬の黒子っちヒドッ!という叫びを華麗に聞き流し、皆はさっさと着替えて体育館に向かいました。
で。

「ちょっと!何で黄瀬君がいるのよ!?」

我等がカントク、リコが再び問題を蒸し返すのだった。
その後。
来ちゃったもんは仕方ないという事で、黄瀬が誠凛バスケ部に仲間入りしました。

「あ、でもまだ仮入部だから」
「キセキの世代なのに仮入部!?」
「そうよ。入部するにはきちんと手順を踏んでね。キセキの世代だろうと、そこはちゃんと守ってもらうわ!」

黄瀬を指差し、ビシッと言い渡すリコ。
その様に、火神を始めバスケ部一年生はウチのカントクマジカッケーと瞳を輝かせるのだった。

「さすがはカントクだぜ!」
「そうですね」
「カントクマジ男前!」
「だな!」
「カントクすげえ!」

一方、先輩達はというと。

「黄瀬にもやらせんのか…アレ」
「そうみたいだな」
「やっべー!超楽しみなんだけど!」
「(ハラハラ)」
「水戸部~、そんな心配しなくても大丈夫だって!」

諦めてたり面白がったり心配したりしていた。
そして、なんやかんやで部活開始。
基礎練習(フットワークやらシュート練やら)から始まり、コンビネーション練習と実戦練習をして最後にミニゲームをし、ミーティングで部活終了。
その後は個人練習タイムなのだよ。
現在、黄瀬は黒子とのパス練を所望している。

「黒子っち!パス練しようよ」
「はい」
「ちょっと待て!黒子、オレの練習に付き合え」
「ちょっ、火神っち何言い出すんスか!ダメダメ、ダメっス!黒子っちはオレとパス練するんスから!ね、黒子っち?」
「テメェこそ何言ってやがる!仮入部は隅で見学でもしてろ!」
「仮入部でも入部は入部っス!それに、ここまで練習した後にそんなこと言われても困るっス。それ言うなら練習に参加させんなってカンジっス」
「くっ、確かに!」
「ってわけで黒子っちはオレがいただくっスよ!さ、黒子っちパス練…あれ?黒子っち、どこ!?」

黒子の得意技、ミスディレクションが発動した模様。

「あ!アイツ伊月センパイとパス練してんじゃねーか!」
「黒子っち!オレも交ぜてー!」
「待て!黒子、オレも交ぜろ!」

黄瀬はすんなり誠凛バスケ部に馴染んだようです。
そして迎えた秀徳戦。

「…なぜ黄瀬が誠凛にいるのだよ!」
「やっほー、緑間っち!久しぶりっスね。今日はよろしくっス!」
「オレの問いに答えろ!」
「あーはいはい。オレ、誠凛に転校したんスよ」
「て、転校!?ちょっ真ちゃん、黄瀬クンが誠凛とかヤバいんじゃね?」

流石の高尾も笑ってはいられないようだ。

「そうか…ふん。黄瀬が加わろうと、勝つのはオレなのだよ」
「オレ『達』な!」
「行くぞ、高尾」
「あ、待てよ真ちゃん!じゃあな、誠凛さん」

少しの動揺を押し隠し、去って行く緑間と高尾。
そして、試合が始まる。

対秀徳戦を終えた数日後。

「突然だが転校生を紹介する。緑間真太郎君だ」
「緑間っち!?」
「む、黄瀬か。まさかオマエと同じクラスになるとはな。…今日のおは朝占いはかに座が11位、思わぬ出会いにストレスが一気にMAXになっちゃうかも。…さすがはおは朝、大当りなのだよ」
「オレとの出会いはストレスなんスか!?」
「なんで緑間まで来んだよ!?」

またしてもあまりの衝撃に固まっていた火神だったが、ようやっと復活し、緑間にツッコミを入れた。

「なっ!火神までいるとは…まったく、おは朝は当たり過ぎなのだよ」
「ボクもいますよ、緑間君」
「!黒子…オマエならばいい。相性は最悪だが共にいて煩わしくないからな」
「ありがとうございます」
「オレと黒子っちの扱いの差!」

黄瀬があまりの扱いの差に泣いた。

「緑間は黄瀬と知り合いか。なら黄瀬の隣に机を持ってきなさい」
「黄瀬の隣ですか……ハァ」
「心底イヤそうにため息つかないで?!」
「馬鹿め、オマエと席が隣同士など心底イヤなのだから仕方ないだろう馬鹿め」
「馬鹿めって二回も言った!」

緑間が増えて、先生から見て右後ろ側がカラフルになってきた。
先生は、若干目がチカチカするな…と胸のうちで呟いた。
そしてクラスメイトの女子は緑間が手に持つウサギのぬいぐるみを見て、早々に『このイケメンも観賞用』と悟った。
本当にクラスメイトの女子が聡い子ばかりでよかったね!

放課後。

「…は?」
「だから、緑間っちも転校して来たんスよ」

バスケ部の部室にて、黄瀬は先輩達に緑間の事を説明していた。
にこやかに。
ちなみに一年生トリオはまたしても遭遇済み。

「緑間も!?なんで!?」
「さあ」
「ダアホ!理由くらい聞いとけ!」
「イタッ!モデルの頭を気安く叩かないで欲しいっス!」
「叩かれたくないならモデルだけやってろや!」
「ムリっス!オレ、もっとバスケしたいんスから!」
「なら叩かれても文句言うな!」
「はいっス!……あれ?」

そんな感じで黄瀬が日向にシバかれたり丸め込まれたりしていると、部室のドアが開いた。

「ウッス」
「お、火神。黒子は?」

黒子はてっきり火神と一緒に来るもんだと思っていた降旗は、火神の傍に黒子が居ない事に首を傾げつつそう問いかけた。

「バニラシェイクと引き換えで緑間に校舎案内してる」
「またか」
「黒子は安いな」

黄瀬と同じ手口で緑間に校舎案内を取り付けられた黒子に苦笑するチームメイト。
そんな彼等に黄瀬は立てた右手の人差し指を左右に振りながらチッチッチッ、まだまだっスね…とかなんとか言い出した。
この時の黄瀬を除く誠凛バスケ部の心境:黄瀬ウゼェ。

「バニラシェイクに釣られる黒子っちマジ天使!オレ、マジバには感謝しかないんスよ…だってマジバのバニラシェイクさえあれば鉄壁ガードを誇る黒子っちに抱き着き放題っスからね!」
「よーし黄瀬ちょっとこっち来いオレが直々に自重を教えてやる」

日向が額に青筋を浮かべつつ拳を固め、黄瀬を近くに呼び付ける。
黄瀬はどこに行っても殴られキャラなのだよ。
と、黄瀬がシバかれ…日向の自重講座が開始される寸前に部室のドアが開き、黒子と緑間が入って来た。

「遅くなりました」
「あ、黒子っち!…と緑間っち」
「狭い部室だな」
「第一声がソレ!?」

小金井の鋭いツッコミが入りました。

「てかマジで緑間だ…黄瀬だけで手一杯だっつーのに緑間までとかどんな拷問だよ…」
「っなん…だと…!?オレが黄瀬ごときと同列で扱われるとは、まったくもって不愉快極まりないのだよ!」
「それどういう意味スか!?」
「ふん、言葉通りの意味に決まっている」

緑間が加わり、さらに騒がしくなった誠凛バスケ部。
ツンデレ変人の加入で先輩達の受難が倍増した。
そして、またしても我等がカントク、リコに説明をしなければならないかと思いきや。

「あ、やっぱり来たのね」

緑間の姿を目にし、リコは何を言うでもなく、一つコクリと頷いて終わりだった。
それを見て、黄瀬は不思議そうに尋ねる。

「なんで知ってるんスか、カントク」
「黄瀬君が来た時点でこうなることは想定済みよ」

まったく、分かりやすいんだからー、と笑うリコ。
そんな彼女に、またしてもバスケ部一年生は尊敬の眼差しで賛辞を送るのだった。

「さすがはカントクだぜ!」
「素晴らしい推測力です」
「カントクマジすげー!」
「だな!」
「やっぱカントクって頭もいいんだな!」

そんな彼等の横で、黄瀬と緑間はこんな会話をしていた。

「カントクにはバレバレだったんスね、緑間っちの行動」
「…何が言いたい」
「べっつにー。ただ、緑間っちの行動予測まで出来るなんてカントクはすごいなーって思っただけっスよ」
「フンッ。たまたまだろう」
「あれ、負け惜しみっスか~?」
「違う。ただの事実なのだよ」
「へ~。そっスか~」
「……(ベシッ)」
「痛い!なんで叩くんスか!?」
「なんかムカついたからだ」
「理不尽!!」

黄瀬は本当によく殴られる。
けどまあ仕方ない…それが黄瀬だから。
そんな叩かれて痛がる黄瀬をスルーし、リコはその隣でスッキリした顔をしている緑間に話しかけた。

「緑間君」
「はい」
「キミ、まだ仮入部だから」
「……は?」
「正式に入部したかったら、本入部届をもらいに来てね」
「このオレが…仮入部、だと?」
「あら~。そんなに仮入部がイヤなら、早く本入部届をもらって私に直接渡してね~」
「…分かったのだよ」

緑間はまだ知らない…誠凛高校男子バスケ部に入部するための試練を…!

「緑間君の宣誓、楽しみですね」
「だな」
「てか何なんスかこの入部テスト~?」
「カントクのモチベーションアップのためだ」
「ハッ?!そんなことのためにオレはあんな辱めを受けたんスか!?」
「そんなことって何よ!私のモチベーションを高めるのもアンタらの大事な義務でしょ!」
「そんな義務、初耳っス!」
「なら今聞いたんだから覚えておきなさい!」
「えー!!?」

この時、黄瀬は思った。
オレじゃなく黒子っちを転校させるべきだった、と。
まあそんなの無理だがね。
緑間が誠凛に来てから二日後。

「オイ緑間!なんだこれ!」

体育館にて、火神が側に置いてあるフィギュアを指差して叫んだ。
それを聞き、緑間は眼鏡の位置を直しながら簡潔に答える。

「見てわからないのか、甲冑のフィギュアだ」
「ンなことは分かってるよ馬鹿にすんな!オレはな、なんでこんなもんを持ってきてんだって聞いてんだよ!」
「それは緑間君の今日のラッキーアイテムが甲冑だからです」
「うおっ!黒子!」

相変わらず黒子の影の薄さに翻弄されている火神。
もっと頑張れ現相棒!

「その通りなのだよ。できれば着て来たかったのだが、さすがに無理だからな。フィギュアで我慢したのだよ」
「このフィギュア、買ったんスか?」
「黄瀬か。相変わらず黒子の後を憑いてまわっているようだな」

※上記の『憑いて』は誤字ではありません

「憑いてって言い方やめて!せめてストーキングって言って欲しいっス!」
「ボク的にはストーキングの方がイヤです」

ボソッと呟いた黒子の声は騒がしい黄瀬の声によって掻き消されてしまいました。

「で、緑間っち。それどうしたんスか?」
「このフィギュアは主将から借りたものだ」
「主将は武将が好きですからね」
「そうだ!ちなみにそのフィギュアは伊達政宗だ!」

主将こと日向順平、実は側に居たんです。

(違いがわからねえ)
「主将。大切なフィギュアを貸していただきありがとうございます」
「大事に扱えよ!」
「はい」
「緑間っち、知らぬ間に日向センパイと仲良くなったんスね」
「そのようですね」
「同じ3Pシューターだし、何か通じるものでもあったんスかね?」
「3Pにかける執念とかか?」
「さあ?」

黒子、火神、黄瀬には疑問しか残らなかったが、緑間は日向と仲良くなったみたいです。
よかったね緑間!
そして迎えた桐皇戦。
コートに姿を現した両校の選手達は、今日の試合相手を目にし、士気を高める……はずだった。
なぜ『はずだった』のかというと、士気を高める前に疑問の声が先に上がったからだ。

「ん?……んん?!」

誠凛にいるはずのない緑色の髪を発見し、今吉が驚いて声を上げる。

「なんで緑間まで誠凛におるんや!?」
「は!?緑間って…うわっ!なんで緑間が誠凛にいんだよ!?」
「え、ミドリン!?なんできーちゃんだけじゃなくミドリンまで誠凛にいるの?!」
「人事を尽くした結果だ」
「どんな人事を尽くせば桃井に知られずに転校できんだ!てか人事ってなんだよ人事って!」
「スイマセンスイマセン!」
「桜井が謝る必要ないやろ!…さすがにキセキの世代が二人もっちゅうんはヤバいの~」
「ハッ!オレがいりゃ負けねえよ」
「ほんま頼もしいヤツやな~。頼りにしとるで、青峰」
「黄瀬と緑間にテツか…全力でやれそうだぜ」

ざわめく桐皇勢。
そんな中、一人笑みを浮かべる青峰を見て、桃井は複雑な気分になる。

「青峰君…」
「ンだよさつき。こうして寝坊しねぇで来たってのに、なに微妙な顔してんだ。ブスがさらにブスになんぞ」
「なっ、青峰君のバカ!ガングロクロスケ死滅しろ!」
「ガングロクロスケってなんだ!ってか死滅!?」
「もしくは漂白して白くなってみなさいよガングロクロスケ!」
「ムチャ言うな!あとガングロクロスケはやめろ!」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を無視し、原澤と今吉は緑間対策を議論中。

「困りましたね」
「黄瀬対策は済んどるが、緑間はしとらんからの~」

それを聞き、黄瀬は首を傾げた。

「えぇ、なんでオレが誠凛にいるのを知って…あ、桃っちか!」
「だろうな。相変わらず桃井の情報収集能力は驚異的なのだよ」
「それをくぐり抜けて転校してきたオマエは一体なんなんだ!」
「ふっ…全てはおは朝の賜物だ」
「おは朝コワイ!!」

緑間のおは朝マジ神宣言に、火神は恐怖した。
そんな火神は丸っと無視し、誠凛バスケ部二年生は闘志を燃やす。

「さあ、いくわよ!」
「おう!1点差でもいいから勝つぞ!」
「ハッ!点差が十(テン)さ…キタコレ!」
「伊月ダマレ」
「小金井君ハリセン貸して」
「アイアイサー!」
「……っ(オロオロ)」

そんな感じで、試合が始まる。

対桐皇戦を終えた数日後。

「…転校生を紹介する。青峰大輝君と桃井さつきさんだ」
「なっ、青峰と桃井!?」
「やっほ~、ミドリン!」
「テツ、どこだ!」
「ボクならここです」

またしても手を挙げ、自己主張をする黒子。
その行為で黒子の居場所を認識した青峰は、自己紹介もせずにズンズンとそちらへ近付くと、黒子の前に座る火神にこう言った。

「どけ」
「誰がどくか!」

間髪入れずに言い返す火神。
両者の鋭い眼光が交わり、バチバチと火花を散らす。
悪人面のガチな睨み合いが唐突に始まり、普通にビビったクラスメイト達がピシッと固まったため教室内が一瞬で静かになった。
それに一切合切まったく頓着せず、桃井が黄瀬に話しかける。
なぜかマジ顔で。

「きーちゃん」
「え、桃っちどうしたんスかそんなマジメな顔して」
「お願い、その席譲ってください」
「ダメっス」
「……どうしても?」
「どうしても」
「……」
「……」

こちらでは美形同士の静かな睨み合いが始まった。
普段にこやかな二人が半眼で睨み合うと、なんだか教室内の気温が少し下がった気がしたりしなかったり。
そんな殺伐とした空気になってしまったこのクラスの担任教師は、なぜうちのクラスにばかり転校生が来るんだろうしかもカラフルなのばかり…と、今は関係ないことで頭を悩ませていた。
所謂『現実逃避』ってやつだよ。
さて。
こんな担任教師さえもさじを投げたカオスな現状を正すのは、やはり黒子しかいないでしょう。

「火神君、青峰君。いきなり睨み合いを始めないでください鬱陶しい。あと青峰君ははやく緑間君の隣にでも机を持ってきて大人しく座りなさい」
「テツウウウゥゥ!!」
「ぶっふぉ青峰ダセェ!」
「なに笑ってるんですか火神君キミも同罪ですよ後でイグナイトの刑ですから覚悟しておいてください」
「イグナイトの刑だけはやめてくれださい!!」

イグナイトの刑、それは火神も恐れる黒子テツヤの私刑罰ナンバー3。
かなり痛いよ。
ちなみにナンバー1はミスディレクションの刑。
気付くと黒子が居なくなってて、いつの間にか独り言を言ってるハメになる、ある意味痛い刑だよ。
ナンバー2はミスディレクションからのひざカックンなど(バリエーション多数有)。
大体が心臓に悪いよ。

放課後。

「青峰と桃井まで転校して来たのだよ」
「青峰と桃井ちゃんが転校して来たあぁ!?え、マジで!?」
「大マジだ」

バスケ部の部室にて、緑間は先輩達に青峰と桃井のことを説明していた。
淡々と。
ちなみに一年生トリオは以下略。

「桃井ちゃんはいいけど、なんで青峰まで来んの!?」
「知るか。オレに聞くな」
「緑間冷たい!」

緑間は先輩にきちんと敬語を使うタイプですが、小金井にはなぜかタメ口っていう。
それは偏に私のイメージです。

「で、その青峰と桃井は?」
「黒子に校内の案内をさせています」
「また黒子か」
「黒子使われすぎだろ」
「まったくっスよ!青峰っち達ズルいっス!」

ぷくっと頬を膨らませて怒る黄瀬。
190cm近い男がやっても可愛くなどないと明記しておこうか。

「てか黄瀬は黒子について行かなかったんだな」
「ついて行こうとしたら黒子っちに『黄瀬君は先に行っててください』って言われちゃったんスよ…黒子っち冷たいっス…」

ドンヨリと沈み込む黄瀬。
だが誰も慰めたりはしません。
なぜならそんな黄瀬に慣れたし構うのが面倒臭いからです。

「まあいいじゃないか。先に部活を始めてよう」
「そうだな。オラ、着替えたヤツはとっとと体育館行けー」
「はい」
「ウス」
「はいっス」

日向にせっつかれ、着替え終えていた緑間達は体育館へ向かう。
と。

「青峰君」
「おう!っし、さすがテツ、ドンピシャだぜ!」
「きゃー!テツ君かっこいー!」
「オレは!?」

体育館には学校案内中なはずの黒子、青峰、桃井がいた。
しかもバスケをしている。

「ちょっ、黒子っちなんでここにいるんスか!?青峰っちと桃っちも!」
「あ?テツに体育館の場所を案内してもらったついでにバスケしてんだよ、文句あんのか」
「文句しかないっスよ!なに勝手にオレの黒子っちとバスケしてんスか!」
「アァ!?黄瀬ぇ、テメエなに言ってんだ!テツはオレんだろーが!!」
「オレのっス!」
「オレんだ!」
「テツ君は私のだもん!」

黒子は自分のだと騒ぐ黄瀬と青峰あとなぜか桃井。
そんな三人を冷めた目で眺める黒子と緑間。

「ボクは黄瀬君のでも青峰君のでも桃井さんのでもないんですが…」
「黒子。あんなヤツらは放っといて、オマエは早く着替えてくるのだよ」
「そうします」

その後。

「桃井さつきです、これからマネージャーとしてよろしくお願いしま~す!こっちの黒いのは青峰大輝です」
「黒いのって言うな!…あー、青峰大輝だ」

二人は誠凛バスケ部員一同の前で自己紹介をしていた。
桃井はにこにこと、青峰はふてぶてしく。

「はいはーい!なんで青峰もウチに転校して来たの~?」
「アァ!?テメェに関係ねーだろ!」
「ヒィッ!」

青峰に睨まれ、ビビる小金井。
それを見た黒子は。

「やめてください青峰君(ズビシッ)」
「イテェッ!なにすんだテツ!」
「小金井先輩を威嚇しないでください。あと先輩には敬語を使いなさい」
「ケッ。なんでオレがこんなヤツに」
「先輩には敬語が基本です。火神君のように帰国子女というわけではないのですから、出来ますよね?それともまさかとは思いますが頭が悪くて出来ないとか言いませんよね?」
「ったりめーだろ!敬語なんざ余裕だっつーの!」
「なら使ってそれを証明してください」
「おう!」

見事な誘導に拍手。

「さすがテツ君!アホ峰なんて掌で操れちゃうんだからステキー!」
「さすがアホ峰。黒子にかかればただのガングロなのだよ」
「いやいや緑間っち、それ意味わかんないっスから。でも言いたいことは何となく理解したっス」
「それは結局どっちなのだよ」
「……さあ?」
「ハッキリしろ!」
「あはは。どっちだっていいじゃないスか~。もー、緑間っちは真面目っスね。あーいや固いって言った方が合ってるんスかね?」
「きーちゃんったら何言ってるの!ミドリンは堅物ツンデレ変人でしょ!ね、ミドリン?」
「オレに聞くな!」
「「えー?」」
「ハモるな!!」

じゃれあうキセキ達。
さっさとバスケしろ!

「もう!じゃれてないで練習するわよ!それと青峰君はまだ仮入部だからそこんとこよろしく」
「ハァッ!?ンだよそれ!!」
「あら~、何か文句でもあるのかしらー?」
「大有りだ!」
「ふーん。なら明日、私に本入部届けをもらいに来たらいいわ。ただし!それを受け取るのは月曜朝8時40分の屋上よ!」
「わーったよ!」
「うふふふふ」

新たな犠牲者がまた生まれるようです。

「…あんな事、もう二度とやりたくないのだよ」
「緑間っち…オレもっス…!」
「黄瀬…!」
「緑間っち!」

そして、緑間と黄瀬に新たな絆が生まれたようです。
次の日。

「テツー、明日シューズ買いに行くから付き合えよ」
「テツ君!あああ明日一緒に買い物に行かない?!ほらそろそろテツ君のバスケシューズ買い替える時期だし私もスポーツ用品店に用事があるから一緒にどうかな~って思って!」
「黒子っちー!明日一緒に出かけないっスか?オレ、そろそろ新しい夏服を買おうと思うんスよ」
「黒子。明日はオレと映画を観に行くぞ。だが勘違いするなよ!ただ単にオレの観たい映画がオマエの好きな作家の作品が映画化されたものだから誘っただけなのだからな!」
「…はあ」

みんな学校も部活も休みが一緒だから、一斉に黒子を誘います。
ただ黒子はみんな一気に寄ってきて一気にしゃべるから詳細は聞き取れなかったようです。

「えっと、皆さん明日は出かけるつもりで、ボクも一緒にどうかという事ですか?」
「おう」
「うん!」
「そうっス!」
「まあ、そうなのだよ」

期待の眼差しで自分を見てくるキセキ達に、黒子はどうしたものかと悩む。
が、すぐに答えは出た。

「なら、みんなで行きましょうか」
「は?ヤだよ、さつき達も一緒とか」
「なら青峰君は一人で行ってください」

きっぱり言い切る黒子。
それを聞き、青峰は慌てて前言を撤回する。

「っ分かったよ!テツがどうしてもって言うから特別にオマエらも一緒で我慢してやらあ、感謝しろ」
「どうしてもなんて言ってません」
「なんで青峰っちが仕切るんスか!」
「大ちゃんは一人で買いに行けばいいじゃない!」
「別に青峰は誘ってないのだよ。一人で買いに行け」

青峰、非難ごうごうだ。
でもヤツは気にしないだって暴君だもの。

「じゃ、明日1時に駅前な。黄瀬は遅れたら置いてく」
「わかりました」
「いやいやわからないで黒子っち!てか青峰っち!なんでオレだけ遅刻したら置いてくんスかヒドイっス!」
「だって黄瀬だし」
「オレの扱い!」

そんなこんなで黒子、青峰、桃井、黄瀬、緑間の五人で遊びに行くことになりました。
が、詳細は省きます。

「…コイツら仲良いな…」

彼等の会話をずっと聞いていた火神はそう呟いた。
そして迎えた陽泉戦。

「あらら~。なんで黒ちんのとこに黄瀬ちんとミドチンと峰ちんとさっちんまでいんのー?」

ポテチをパリパリ食べながら、首を捻る紫原。

「よう。久しぶりだな、紫原」
「久しぶり、峰ちん。あれ、前より黒くなった?」
「なってねえ!」
「そお?でもなんか黒くなったように見えるんだけど?」
「気のせいだ!」
「ムッ君、大ちゃんは元からこの黒さだよ」
「え~、そうだっけ?」

青峰が黒くなったか黒くなってないかで言い合う彼等の横で、昔の兄貴分との思い掛けぬ再会に動揺する火神がいた。

「…久しぶりだな、タイガ」
「なっ、タツヤ!?なんでオマエが日本にいやがる!」
「オレも今年から日本に帰ってきたんだ。今日はお互い全力でやろう」
「…タツヤ、オレは…」
「あれ?彼、火神っちの知り合いなんスか?」
「黄瀬君、今はお二人の会話に割り込むタイミングではないと思います」
「なーに言ってるんスか黒子っち。タイミングばっちりじゃないスか!」

試合前に火神のメンタルが揺らぐのを防ごうと、無理矢理な感じで会話に割り込んだ黄瀬。
彼は意外とエアーリーディングに長けているのですほんと意外と。

「ああ、自己紹介がまだだったね。オレは氷室辰也。タイガの兄貴分だ」
「へえ。火神っちの兄貴分、ね」
「今日はよろしく」
「よろしくお願いします」
「!君は…いつからそこに?」
「始めからいました」
「ほんと?全然気付かなかったよ」

初対面なので黒子の存在に気付かないのは仕方がない。

「あ。もしかして君が黒子テツヤ君かな?」
「はい」
「アツシからよく君のことを聞かされたよ。本当に驚くほど存在感がないんだな」
「はあ」
「ちょっ、失礼じゃないスか!確かに黒子っちは目の前にいても気付かないくらい超影薄人間っスけど、そんなハッキリ言ったら黒子っちが傷付くっス!」
「ボク的には氷室さんより黄瀬君の言葉に心をずたずたにされたのですが」
「まったく、黄瀬はダメなヤツなのだよ」

眼鏡を押し上げ、やれやれとばかりに息を吐く緑間。
それに続き、先輩達もやれやれと首を振った。

「黄瀬は今日ベンチだな」
「そうね」
「黒子を傷付けたんだから仕方ないな」
「そうだそうだー!」

黄瀬フルボッコ。
果たして黄瀬は本当にベンチなのか!?
そんなこんなで、試合が始まる。

次の日。

「…久しぶりだね。また会えて嬉しいよ」

微妙に強張った顔で赤司が再会の挨拶を口にする。

「それで、なぜ涼太と真太郎と大輝とさつきが誠凛にいるのかな?」
「黒子っちとまた一緒にバスケがしたくなったからっス!」
「特に理由は無いが、しいて言うなら黒子のパスを生かすためだ」
「やっぱオレにはテツが必要だって気付いたから、だな」
「テツ君が好きだから!」

それぞれの答えを聞き、黒子を見遣る赤司。

「相変わらずテツヤは愛されているね」
「はあ、ありがとうございます」
「敦もIHが終わり次第、誠凛へ転校すると言ってきたよ」
「紫原君も?」
「ああ。これで、僕以外のキセキの世代が誠凛に集まることになるね」

そう言い、遠い目をする赤司。
そんな赤司の様子に気付き首を傾げる黒子。

「赤司君?」
「…テツヤ、僕は敗北を知らない」
「そうですね」
「生まれてこの方、常に勝利してきた。そんな僕が、どうしたことかお前達との試合に勝つイメージがわかないんだ」
「そうですか。ご愁傷様です」
「……」

無言で去る赤司の背には、哀愁が漂っていた。

そして、試合が始まる。
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