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薄桜鬼

ある晴れた日。
いつも通り土方さんにお茶を持っていった時に、それは起きました。

「土方さん、お茶をお持ちしました」
「おう。そこに置いとけ」
「はい」

土方さん、今日は一段と疲れている様に見える。
たまには休んで欲しい…でも口出しするなって言われるだろうし…。
と、モヤモヤ考えていると。

「く、あぁっ、寝みいな…ちっと休むか」
「えっ!本当ですか!?」

私の想いが届いたのかと思ってつい大きな声を出してしまった。

「あ?俺が休むのはそんな変な事か。それとも、休んじゃいけねえってのか」
「い、いえ!そんなことありません!」

慌て首を横にふる。
でも、珍しいとは思った。

「さて、茶ぁ飲んだら少し横になる。悪いが一刻ばかりしたら起こしてくれ」
「はい」

あ、そうだ。

「土方さん。もしよろしければなんですけど…」
「何だ?」
「膝枕はいかがですか?」
「ぶっ!」

土方さんがお茶を吹き出しそうになった。
私、そんなに変な事を言ったのかな?

「あの、お嫌でしたら気にしないで下さい!」

顔が熱い。
変な事を言うんじゃなかった。
慌て立ち上がり、土方さんの部屋を出ようとした。
でも。

「ちょっと待て」
「は、はい!?」
「膝枕、してくれんだろ?」
「え、あ、はい!もちろんです!」

自分から申し出た事だけど、まさか土方さんが了承するなんて思わなかった。
うぅ、緊張する…。
土方さんの傍らに座り直し軽く袴を叩く。

「ど、どうぞ」
「おう」


一刻後。
私は今とても困っています。

土方さんが起きてくれなくて!!

一刻ちょっと過ぎに恐る恐る眠る土方さんの肩を揺らしてみたものの全く起きる気配がない。
声をかけても駄目。
どうしよう。
あわあわと一人慌ててると、遠くから声が聞こえてきた。

「あ~あ、今日も何も起きなかったね」
「平和なのは良いことだろう。何故残念そうなのだ」
「たまには刺激が欲しくなるもんじゃない?仕方ないから千鶴ちゃんで遊ぼうかな」

巡察を終えた報告に厄介な人が来てしまった。
しかも何か怖い事を言ったような。
まずい、段々近付いてくる!

「そういえばいつもは出迎えてくれるのに今日は居なかったね」
「また庭掃除でもしているのではないか?」
「それか土方さんにお茶持ってったか、だね」

当たりです、沖田さん…。
なんてぼんやり思っていたら。
沖田さんと斎藤さんが土方さんの部屋の前まで来てしまった。

「土方さん、入るよ」
「待っ!」

スパンッ!

言うと同時に襖を開けられてしまった。
待って下さいと言う暇もなかった。


ここからは第三者視点で進みます。


「「「………」」」

長い長い沈黙。
ある者はまずいものを見られた!というあからさまな焦り&困り顔。
ある者は面白いものを見たなあ、どうやってからかおうかな~?というからかう気満々の顔。
ある者はまずいものを見たが最近休まず働きお疲れの副長が休まれるのは良いことだ、だが千鶴の膝枕…羨ましい…とか考えているが無表情。

そんな三竦み的な構図に割って入ったのは、眠りから覚めた土方だった。

「…っあー、よく眠れたぜ。千鶴、膝ま…って、お、お前等いつから!?」

がばっと身を起こし寝顔をやら膝枕やらを見られた気恥ずかしさから顔を赤くする土方。
そんな土方に追い打ちをかける沖田。

「おはようございます、土方さん。鬼の副長とは思えない程緩んだ寝顔でしたよ。僕たちが巡察中に昼寝なんていい御身分ですね…千鶴ちゃんの膝枕、気持ち良かったですか?」

土方を上から見下ろしながらにやにやと嫌みを言う沖田に、それまで黙っていた斎藤がやっとでストップをかけに入る。

「やめろ総司。副長はここ数日間殆ど休まず働かれ、お疲れのご様子だった。休養も必要だ」
「えー。でも、千鶴ちゃんの膝枕で休む必要はないよねえ?」
「…」

斎藤は反論出来ないようだ。
沖田はにやにやしながら土方を見下ろし続け、土方は沖田を睨みながらも何も言えずにいる。
そして斎藤はまだ何も言えずに突っ立っていた。
そんな状況を打破しようと、千鶴が慌てて事情を説明し出す。

「沖田さん、土方さんは何も悪くありません!」
「え~?」
「膝枕は私が提案した事ですし、土方さんをきちんと起こせなかったのは私に非があります」
「ふーん、そうなんだ。千鶴ちゃんが提案したんだ(にやり)」
「総司、何を企んでいる」

流石は斎藤。
ちょっとにやりしただけで、沖田が何か悪巧みを考えついたのを見抜いたようだ。

「ねえ千鶴ちゃん」
「はい。なんでしょうか沖田さん?」
「僕にも膝枕してよ」
「え!?」
「ね、いいよね?じゃあ今日の晩、僕の部屋に来てね」

でなきゃ、斬るよ?

そんなオーラを醸し出し、千鶴に膝枕を強要する沖田。
そんな沖田を止めるのは勿論この人。

「総司。あまり千鶴を困らせるなと言っているだろう」

『千鶴を守るのは俺の役目だ!』な斎藤さんです。
不機嫌オーラを巧みに隠し冷静に沖田を止めます。
だがしかし沖田はそんな制止じゃ止まらない。

「ねえ、千鶴ちゃん。僕に膝枕するの…嫌?」
「え、あの、嫌というわけでは、ない、です」
「ならいいよね。ほら、千鶴ちゃんもこう言ってるんだから一君がとやかく言う筋合いないよね」
「……(くっ)」

口惜しい!という表情を浮かべながら、頷く斎藤。
ちょっ、もっと頑張ってよ斎藤さん!

「待ちやがれ!んな事許可出来るか!」

おおっとぉここで鬼の副長が参戦だあ!
いっちょ打ち噛ましてやって下さい土方さん!
…おや?
そんな土方さんに千鶴ちゃんが熱視線を送っています。

「土方さん…!」

千鶴ちゃんの土方に対する信頼度及び好感度がアップした。

「千鶴は俺の小姓だ。俺の許可なく勝手に千鶴を使う事は許さねえ、分かったな!」

断言した。

「えー、土方さん横暴ー。千鶴ちゃん可哀相ー」
「…はい(総司よりはましだろう)」

と、そんなわけで。
土方さんの鶴の一声により千鶴ちゃんの膝枕は許可制(とは名ばかりで土方専用)になったのでした。



おまけ


「あの時はありがとうございました土方さん」
「いや。…千鶴」
「はい?」
「もしお前が総司でも斎藤でも本気で膝枕したいってんなら、止めねえ。それは俺が口出す事じゃねえからな」
「そんな…私は土方さんにしかしたいと思いません!」
「っ、そうか。ならいい」
「はい!」
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