緋色の欠片
「なあ」
「なんすか真弘先輩」
「クリスタルガイってよー、祐一が教えた変化の術で人型になってんだよな?」
「そうだ」
「ならよ、別の何かにも化けれるのか?」
「それはオサキ狐に直接訊いてみろ」
「そうだな。おい、クリスタルガイ!」
ここは珠紀と美鶴の暮らす宇賀谷家。
いつも通り守護五家改め守護六家が居間に集まっている。
皆で楽しく(と珠紀は思っている)昼食を食べ終えた頃、真弘先輩がふと思い付いたのかそんな疑問を口にした。
それが、まさかあんな事になるだなんて…。
真弘先輩に呼ばれ、私の影からおーちゃんが出てきた。
「ニー!」
「もう、真弘先輩!クリスタルガイじゃなくておーちゃんだって言ってるじゃないですか!」
「今はそんな話をしてる場合じゃねえ!おい、クリスタルガイ。お前、いつもの人型じゃねえ姿に変化って出来んのか?」
真弘先輩の質問に答えるために、手乗りサイズの狐姿から人型に変化するおーちゃん。
「できるー」
えっへん、と言わんばかりの顔で肯定するおーちゃん。
私、初耳なんですけど。
「マジか!?お前意外とデキル使い魔だったんだな!」
「スゴいですね!」
「それは是非、見せていただきたいですね」
「やるじゃねえか尾崎!」
「ふん」
「頑張ったな、オサキ狐」
皆が褒めてくれて、おーちゃん嬉しそう。
「えへへー」
満面の笑みで私に飛び付いてきた。
うう、おーちゃん可愛い!
「ねえ、おーちゃん。変化の術、見せてくれる?」
「いいよー!」
とても良い返事がかえってきた。
一体何に変化してくれるんだろ?
「えいっ!」
掛け声の後。
目の前に、私が居た。
「どーお?」
「ええええぇ!?」
何と、おーちゃんは私に変化したのだ!
スゴい。
まるで鏡を見てるみたい。
でも…。
「たーまーきー。にてる?」
私と同じ顔で物凄くにっこり笑ってる。
それも、小首を傾げて、瞳をキラキラ輝かせて。
……。
「に、似てるよ?」
「ほんと~!?わーい!」
私が私に抱きついてきた。
とても妙な気分。
「すっげえな!まんま珠紀じゃねえか!!」
真弘先輩が目を丸くして、私に化けたおーちゃんを凝視している。
「先輩そっくりですね~」
慎司君はにこにこ私達を見ている。
「匂いは違うがな」
遼はやっぱり匂いなんだね…。
「そんな事誰もわかんねえよ灰色頭」
拓磨は、遼にツッコミを入れつつおーちゃんを見ている。
「本当にそっくりですね」
卓さんは変化の術の出来を確認してるみたい。
「オサキ狐、変化の術はもう完璧のようだな」
祐一先輩が仄かに微笑みながらそう言った。
やっぱり、変化の術を教えてくれた祐一先輩に褒められるのが一番嬉しかったみたい。
「わーい、ゆーいちー!」
がばっ
!!!!!
「きゃああああああ!おおおおーちゃん、私の姿で祐一先輩に抱きつかないでー!!」
おーちゃんはまだ私に化けたままだ。
いくら嬉しくても私の姿で抱きついたりしないで欲しい!
「ふむ。…オサキ狐」
祐一先輩は何か思案するように右手を顎に当て、左手を私に化けたおーちゃんの肩に乗せる。
「なーに?」
「体も珠紀と同じなのか?」
ななな何を訊いてるんですか祐一先輩!!?
「そーだよー。たまきといっしょー」
おーちゃんはそう言いながら、また祐一先輩に抱きついた。
そして祐一先輩はおーちゃんをそっと抱き締めると。
「これが珠紀の柔らかさか」
と言った。
祐一先輩、そんな恥ずかしい事言わないで下さい!!
私があまりの事に固まっていると。
「ちょっと待て祐一!」
真弘先輩の待ったが入った。
うう、さすがは真弘先輩!
姿はアレでも中身は大人ですもの!
おーちゃんと祐一先輩を引き剥がしてくれますよね!!
「ズリイぞ!俺にも触らせろ!!」
はあ!?
「そうっす」
「ですね」
「その通りです」
「全くだ」
皆、真弘先輩の言葉に頷いてるし!
な、何なの!?
「皆して何言ってるの!?おーちゃん!直ぐに元の狐の姿に戻って!!」
私はおーちゃんと祐一先輩を引き剥がしつつ、そうお願いした。
けれど。
「なーんーでー?」
小首を傾げたおーちゃんに、疑問を返されてしまった。
おーちゃん、分かって!すっごく恥ずかしいの!
「と、とにかく!元の姿に戻って…」
なんとかおーちゃんを元の姿に戻そうと頑張る私。
なのに。
「まあ待てって珠紀。せめてこの俺様が触ってからでもいいだろ?」
真弘先輩、いいわけないでしょ!?
「そうだぞ珠紀。俺だって尾崎の変化の術の出来が気になってんだ」
拓磨まで!!
「僕も気になります!」
そんなキラキラした笑顔で言わないで、慎司君!
「俺はもういい」
満足って顔しないで下さい祐一先輩!
「ふん。俺は本物にしか興味はない」
遼、私に変な視線寄越さないで。
「おやおや。皆さん、珠紀さんを困らせてはいけませんよ」
さすがは卓さん!
皆がその言葉に渋々ながらも頷きかけた。
が。
「皆さんを代表して私が確認しますから」
その言葉で、部屋の空気が一変した。
「それは納得いかねぇなあ、大蛇さんよぉ!!」
「そうっす!なんで大蛇さんだけいい思いするんすか!」
「そうですよ!ここは平等に皆で確認すべきです!」
「……すぅ」
「ふん」
「おや。私の提案に不満があると?」
なぜか一触即発な雰囲気になってるんだけど!?
まあ、戦線離脱してる人もいるけど。
「ちょっと皆!」
私は制止の声をかけようとしたけれど誰も見向きもしない。
「こうなったら仕方ねえ、誰がクリスタルガイに触るか勝負だ!」
「絶対に負けないです!」
「俺も、負ける気はないっす」
「仕方がありませんねえ」
勝手に決めないでよ!!
「み、皆、私の話を」
「よし!勝負といえば肉弾戦だな!」
「あの、言霊を使ってもいいですか?」
「肉弾戦なら俺の勝利は確定してるようなもんっすね」
「鬼崎君。勝負というものは、やってみなくては結果など分からないものですよ?」
誰も聞いてくれない…。
どうしよう。
今にも殴り合いが始まりそう…。
そんな時。
「皆様、一体何をしているのですか?」
美鶴ちゃんが居間に戻ってきた。
「えーん、美鶴ちゃーん!!」
「珠紀様!?何かあったのですか!?」
「あのね…」
私が美鶴ちゃんに事の一部始終を話すと。
「…よく、わかりました」
美鶴ちゃん?
顔はいつも通り笑顔なんだけど、後ろに般若が見えるよ?
「オサキ狐さん?ちょっとこちらへ」
いまだに私に化けたままのおーちゃんが、トコトコと美鶴ちゃんの方に近付く。
「な、なにー?」
おーちゃんも、美鶴ちゃんの後ろに般若が見えたみたい。
「本当に珠紀様そっくりですね」
「ほ、ほんとー?えへへー」
「ええ。さ、もう戻っていいですよ?」
「…に?」
「ですから。戻って、い・い・で・す・よ?」
美鶴ちゃんの後ろの般若が大きくなった。
そんな美鶴ちゃんの迫力に当てられ。
おーちゃんは慌てて元の狐姿に戻り、急いで私の影に飛び込んだ。
ちょっと、可哀想だったかな?
それを確認した美鶴ちゃんは、次のターゲットを守護六家に定めた。
「皆様、お分かりですね?」
その後。
美鶴ちゃんがいいと言うまで皆で一列になって正座していた。
そしてこの事件の後、おーちゃんは一度も私の姿に化けることはなかったのだった。
「なんすか真弘先輩」
「クリスタルガイってよー、祐一が教えた変化の術で人型になってんだよな?」
「そうだ」
「ならよ、別の何かにも化けれるのか?」
「それはオサキ狐に直接訊いてみろ」
「そうだな。おい、クリスタルガイ!」
ここは珠紀と美鶴の暮らす宇賀谷家。
いつも通り守護五家改め守護六家が居間に集まっている。
皆で楽しく(と珠紀は思っている)昼食を食べ終えた頃、真弘先輩がふと思い付いたのかそんな疑問を口にした。
それが、まさかあんな事になるだなんて…。
真弘先輩に呼ばれ、私の影からおーちゃんが出てきた。
「ニー!」
「もう、真弘先輩!クリスタルガイじゃなくておーちゃんだって言ってるじゃないですか!」
「今はそんな話をしてる場合じゃねえ!おい、クリスタルガイ。お前、いつもの人型じゃねえ姿に変化って出来んのか?」
真弘先輩の質問に答えるために、手乗りサイズの狐姿から人型に変化するおーちゃん。
「できるー」
えっへん、と言わんばかりの顔で肯定するおーちゃん。
私、初耳なんですけど。
「マジか!?お前意外とデキル使い魔だったんだな!」
「スゴいですね!」
「それは是非、見せていただきたいですね」
「やるじゃねえか尾崎!」
「ふん」
「頑張ったな、オサキ狐」
皆が褒めてくれて、おーちゃん嬉しそう。
「えへへー」
満面の笑みで私に飛び付いてきた。
うう、おーちゃん可愛い!
「ねえ、おーちゃん。変化の術、見せてくれる?」
「いいよー!」
とても良い返事がかえってきた。
一体何に変化してくれるんだろ?
「えいっ!」
掛け声の後。
目の前に、私が居た。
「どーお?」
「ええええぇ!?」
何と、おーちゃんは私に変化したのだ!
スゴい。
まるで鏡を見てるみたい。
でも…。
「たーまーきー。にてる?」
私と同じ顔で物凄くにっこり笑ってる。
それも、小首を傾げて、瞳をキラキラ輝かせて。
……。
「に、似てるよ?」
「ほんと~!?わーい!」
私が私に抱きついてきた。
とても妙な気分。
「すっげえな!まんま珠紀じゃねえか!!」
真弘先輩が目を丸くして、私に化けたおーちゃんを凝視している。
「先輩そっくりですね~」
慎司君はにこにこ私達を見ている。
「匂いは違うがな」
遼はやっぱり匂いなんだね…。
「そんな事誰もわかんねえよ灰色頭」
拓磨は、遼にツッコミを入れつつおーちゃんを見ている。
「本当にそっくりですね」
卓さんは変化の術の出来を確認してるみたい。
「オサキ狐、変化の術はもう完璧のようだな」
祐一先輩が仄かに微笑みながらそう言った。
やっぱり、変化の術を教えてくれた祐一先輩に褒められるのが一番嬉しかったみたい。
「わーい、ゆーいちー!」
がばっ
!!!!!
「きゃああああああ!おおおおーちゃん、私の姿で祐一先輩に抱きつかないでー!!」
おーちゃんはまだ私に化けたままだ。
いくら嬉しくても私の姿で抱きついたりしないで欲しい!
「ふむ。…オサキ狐」
祐一先輩は何か思案するように右手を顎に当て、左手を私に化けたおーちゃんの肩に乗せる。
「なーに?」
「体も珠紀と同じなのか?」
ななな何を訊いてるんですか祐一先輩!!?
「そーだよー。たまきといっしょー」
おーちゃんはそう言いながら、また祐一先輩に抱きついた。
そして祐一先輩はおーちゃんをそっと抱き締めると。
「これが珠紀の柔らかさか」
と言った。
祐一先輩、そんな恥ずかしい事言わないで下さい!!
私があまりの事に固まっていると。
「ちょっと待て祐一!」
真弘先輩の待ったが入った。
うう、さすがは真弘先輩!
姿はアレでも中身は大人ですもの!
おーちゃんと祐一先輩を引き剥がしてくれますよね!!
「ズリイぞ!俺にも触らせろ!!」
はあ!?
「そうっす」
「ですね」
「その通りです」
「全くだ」
皆、真弘先輩の言葉に頷いてるし!
な、何なの!?
「皆して何言ってるの!?おーちゃん!直ぐに元の狐の姿に戻って!!」
私はおーちゃんと祐一先輩を引き剥がしつつ、そうお願いした。
けれど。
「なーんーでー?」
小首を傾げたおーちゃんに、疑問を返されてしまった。
おーちゃん、分かって!すっごく恥ずかしいの!
「と、とにかく!元の姿に戻って…」
なんとかおーちゃんを元の姿に戻そうと頑張る私。
なのに。
「まあ待てって珠紀。せめてこの俺様が触ってからでもいいだろ?」
真弘先輩、いいわけないでしょ!?
「そうだぞ珠紀。俺だって尾崎の変化の術の出来が気になってんだ」
拓磨まで!!
「僕も気になります!」
そんなキラキラした笑顔で言わないで、慎司君!
「俺はもういい」
満足って顔しないで下さい祐一先輩!
「ふん。俺は本物にしか興味はない」
遼、私に変な視線寄越さないで。
「おやおや。皆さん、珠紀さんを困らせてはいけませんよ」
さすがは卓さん!
皆がその言葉に渋々ながらも頷きかけた。
が。
「皆さんを代表して私が確認しますから」
その言葉で、部屋の空気が一変した。
「それは納得いかねぇなあ、大蛇さんよぉ!!」
「そうっす!なんで大蛇さんだけいい思いするんすか!」
「そうですよ!ここは平等に皆で確認すべきです!」
「……すぅ」
「ふん」
「おや。私の提案に不満があると?」
なぜか一触即発な雰囲気になってるんだけど!?
まあ、戦線離脱してる人もいるけど。
「ちょっと皆!」
私は制止の声をかけようとしたけれど誰も見向きもしない。
「こうなったら仕方ねえ、誰がクリスタルガイに触るか勝負だ!」
「絶対に負けないです!」
「俺も、負ける気はないっす」
「仕方がありませんねえ」
勝手に決めないでよ!!
「み、皆、私の話を」
「よし!勝負といえば肉弾戦だな!」
「あの、言霊を使ってもいいですか?」
「肉弾戦なら俺の勝利は確定してるようなもんっすね」
「鬼崎君。勝負というものは、やってみなくては結果など分からないものですよ?」
誰も聞いてくれない…。
どうしよう。
今にも殴り合いが始まりそう…。
そんな時。
「皆様、一体何をしているのですか?」
美鶴ちゃんが居間に戻ってきた。
「えーん、美鶴ちゃーん!!」
「珠紀様!?何かあったのですか!?」
「あのね…」
私が美鶴ちゃんに事の一部始終を話すと。
「…よく、わかりました」
美鶴ちゃん?
顔はいつも通り笑顔なんだけど、後ろに般若が見えるよ?
「オサキ狐さん?ちょっとこちらへ」
いまだに私に化けたままのおーちゃんが、トコトコと美鶴ちゃんの方に近付く。
「な、なにー?」
おーちゃんも、美鶴ちゃんの後ろに般若が見えたみたい。
「本当に珠紀様そっくりですね」
「ほ、ほんとー?えへへー」
「ええ。さ、もう戻っていいですよ?」
「…に?」
「ですから。戻って、い・い・で・す・よ?」
美鶴ちゃんの後ろの般若が大きくなった。
そんな美鶴ちゃんの迫力に当てられ。
おーちゃんは慌てて元の狐姿に戻り、急いで私の影に飛び込んだ。
ちょっと、可哀想だったかな?
それを確認した美鶴ちゃんは、次のターゲットを守護六家に定めた。
「皆様、お分かりですね?」
その後。
美鶴ちゃんがいいと言うまで皆で一列になって正座していた。
そしてこの事件の後、おーちゃんは一度も私の姿に化けることはなかったのだった。