このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

緋色の欠片

俺の名は壬生克彦。
玉依姫である高千穂珠洲の守護者兼恋人だ。
現在、弟の小太郎と綿津見村で暮らしている。
村は平和そのもので何の問題も無い。
だが。
俺個人には、問題が山積みだった。

「おい」

昼休み。
今日もいつも通り、司書室に皆集まっての昼食タイム。

「何ですか?克彦さん」
「来い」
「?」
「俺の傍に来いと言ってるんだ」
「??はい」

とことこ近付いてくる珠洲。
つまり、数メートル離れた場所に居たということだ。
それが、納得いかん。

「私に何かご用ですか?」
「…今は、昼休みだ」
「そうですね」
「俺は三年で、お前は二年だ」
「そのとおりです」
「だからだ」
「?何がですか?」
「…」

珠洲は全く分かっていないようだ。
学校で俺と珠洲が会えるのは昼休みだけだと。
これが、俺の悩みの一つ。
珠洲が淡白過ぎる。

「珠洲~!壬生兄なんかほっといて、早く来て~!」
「姉さん。次、姉さんの番だよ」
「早く来ないとお前の手札見るぞ」
「ねーちゃん、はーやーくー!」
「ほら、お茶が冷めてしまうよ」
「珠洲、早く来てくれ!昼休みが終わってしまう!!」
「ちょっと待って~!ごめんなさい、克彦さん。私、戻らないと!」
「あ、おい!」

俺に背を向け、離れていく珠洲。
俺より、あいつらを取るのか?
何故なんだ、珠洲…。

放課後。
今は、学校からの帰り道。
珠洲と二人で歩いている。

「克彦さん」
「…」
「かーつーひーこーさ~ん」
「……」
「何で怒ってるんですか?」
「怒ってない!」
「…」
「…」
「怒ってるじゃないですか」

何でですか?と何度も何度も訊いてくる珠洲。
何故、だと?
お前が俺を蔑ろにしたからに決まっているだろうが!
昼休みに珠洲が俺を置いて他の奴等の元に行った後、また帰りに会いましょうという一言で会話が終わりだった。
俺の扱いが酷すぎる。

「珠洲」
「はい」
「お前、俺を何だと思ってるんだ?」
「大好きな恋人です!」
「…ああ。その通りだ(そうはっきり言われると、少し照れるな)」
「それがどうかしたんですか?」
「なら何故、お前は俺を蔑ろにするんだ?」
「えぇ!?そんなことありません!!」
「嘘を吐くな」

あの昼休みの扱いは、どう考えても俺を蔑ろにしている。
…少し、不愉快だ。

「んー。もしかして、お昼休みの事ですか?」
「そうだ」
「嫌な思いをさせたのならすみませんでした。…ただ、皆で居るのが楽しくって…」

ん?
何だか、珠洲の様子がおかしい。

「学校であんなに楽しい時間を過ごせるなんて、叶わない夢だと思っていましたから」

今にも泣き出しそうな程、瞳を潤ませている。

「私、今まで学校で楽しいと思った事がなかったんです」

ギュッと手を握りしめ、ぽつりぽつりと話す。

「だから、学校では皆と一緒に居たくて」

手を伸ばし、俺の腕にソッと触れる。

「すみません」


「いや」

どうやら、俺が短慮だったようだ。

「そうだったのか。…嫌なことを思い出させたようだな、すまん」

首を横に振る珠洲。
だが、その瞳にはまだ涙が浮いている。
だから。
悲しそうな顔を見たくなくて、俺の腕に触れていた手を引き、抱き締める。

「!!?」

驚いて固まっている珠洲を、より強く抱き締める。

「辛気くさい顔をするな。こっちまで気が滅入る」

ビクッと身体を震わせる珠洲。
恐る恐る顔を上げた、その額に。

優しく口付ける。

「だから、笑っていろ」

お前が笑っていないと、俺も笑えないからな。

「ありがとうございます、克彦さん」

涙は消え、俺に晴れやかな笑顔を向けてくる珠洲。
俺も、その笑顔に応えるように微笑みを浮かべた。



「だが俺のあの扱いは許さん」
「あ、はい」
「もっと俺の傍に居ろ。いいな?」

何だか子供のようだな、と少し思った。
4/8ページ
スキ