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緋色の欠片

私は今、人生で初めて…ではなく、三度目…くらいかな?
の最大の危機を迎えている。

「あの、祐一先輩…」
「なんだ?」
「こ、こ、この体勢はいったいなんなんですか~!?」

只今の私の状況はというと。
場所は自宅である宇賀谷家の居間。
祐一先輩に何故か押し倒され。
さらに私の両手は祐一先輩の左手によって頭の上に固定されている。
そして。
今、一番の問題点は。

祐一先輩の右手の動き。

「く、唇に…!」

祐一先輩はその綺麗な親指で私の下唇をゆっくりとなぞっている。

「二日前、拓磨と真弘が雑誌を読んでいた」
「唐突ですね」

こんな状況なのに思わずつっこんでしまった。

「その雑誌に書かれていた記事を、真弘がいつもの大声で読んでいた。その内容が『女性がリップクリームを塗ったらキスをしてもいいという合図』というものだった」

一体何年前の記事なの?!
そしてあの二人はいったい何の雑誌を読んでるの!?
という脳内ツッコミは置いといて。
つまり今の祐一先輩の話の流れからすると、私がリップクリームを塗り直したのが原因って事なの!?
だってだって祐一先輩の前で乾いた唇のままでいるわけにいかないじゃない!
別にキスして欲しくて塗り直したわけじゃないよ?
でもキスされるのが嫌ってわけじゃないしむしろ嬉しいくらいだけど!
でもでもそれだと狙って塗り直したと思われそうで祐一先輩に誤解されたら困るし…。
と、ぐるぐる悩んでいたら。

「違うのか?」
「断じて違います!!」

そこは正すべきだと判断した私。
しっかりと否定した。

「そうか」

心持ち眉を下げた祐一先輩。
ちょっとガッカリしたのかな?
でも、これでこのよくわからない状況から抜け出せる!
と思いきや。

「まあ、今のはただの世間話だ」
「この体勢で世間話!?」

有り得ない!と言いたいけど、祐一先輩なら有り得そうで言えない。

「せ、世間話なら、座ってしませんか!?この体勢は世間話にはあまりにそぐわない体勢だと思うんです!」

このよくわからない状況を打破しようと、必死で話をする私。
よくわからないけど、ここで負けたら何か大変な事になる気がする!

「あ!お茶冷めちゃったと思うので、私淹れ直してきます!!」
「いや、いい」

即答だった。

「なら茶菓子か何かを取ってきます!」
「いや、いい」

またも即答だった。

「じゃあ!」
「今は菓子より珠紀が欲しい」

どーゆー意味ですかそれ!?

「珠紀」
「ゆ、祐一せん~~!」

結果から言えば、私は負けた。
大敗だった。
惨敗だった!
ううぅ…色々奪われた…。
自室ならまだしも居間でよ?
あの時、誰か来たらどうするつもりだったんだろう…。
って違う!
容認しちゃダメよ私!
いつもいつも祐一先輩に負けてばかりいられない!
絶対次は負けないんだから!!
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