夏と青
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昼休憩、はるは友達とのじゃんけんに負けて、かわりに中庭の隅にある自動販売機へジュースを買いに来ていた。
『なんだっけ、オレンジジュースとコーラと』
「パシられてやんの」
『あ、御幸』
自動販売機にお金を投入している時、御幸がやってきて話しかけてきた。
「おれはなににしよっかなー」
『あんたこの状況見てよくそんなこと言えるねー。逆にこの前の期末テストで教えてあげた借り、返してほしいくらいだわ』
「またまた~。そんな厳しいこと言わないで」
御幸はへらりと笑い、はるの頭をぺちぺちと叩いた。
そして少し間を開けて口を開いた。
「その中にはヤナギクンのもあるのかな」
その名前を御幸の口からきいてはるは少し動揺した。
柳から告白を受けて以来、数日たったが、御幸からはるに柳の事を聞くことは無かったのだ。
はる自身、その話を御幸と関連づけて考えることが少なくなっていたため、いきなりの事で驚いたのだ。
『柳君のはないけど』
「フーン」
『なに』
「別に」
少し不貞腐れたように返事をする御幸に、なんなんだ、という感情を抱えつつ、残りの頼まれていたジュースを買う。
『はい、どーぞ。私もう買ったし、使ってください』
「別に買うもんねーよ」
『じゃあ何しに来たわけ』
「はるが見えたから」
『…何それ』
またもや突然の御幸の発言にはるは、うれしさを噛み殺した。
このまま一緒にいるといつか頬が緩んでしまう、と感じたはるは、少しうつむき、じゃあね、と言ってその場を立ち去ろうとした。
が、それはかなわず、御幸に腕をつかまれた。
その反動で抱えていた数本の缶ジュースが音をたててはるの腕から転がり落ちた。
あわてて拾おうとしゃがもうとするはるを御幸は許さず、つかんだ手に力がこもった。
『え、ちょ、何。拾いたいんだけど』
「ヤダ」
『ヤダ、て。これお使いなんですけど』
「…」
『おーい。御幸くーん』
御幸を見るが視線は少し下を見ていた。
はるが顔を覗き込むと御幸は、はああ、と大きなため息をつき、はるの腕はなすと地面にしゃがみこんだ。
それにつられはるも一緒に地面にしゃがむ。
「…なんか俺、くそだせぇ」
『別に、今に始まったことじゃないけど』
「今それ言われると地味に傷つく」
『なんなの。御幸君、ナイーブな時期なの?早めの5月病?』
「そうかも。もうそういうことにして」
元気なさげな御幸の声を聴いて、離れることもできず、そのまましゃがんでいると御幸が再びつぶやいた。
「…ださい」
『なんでもいいけど、話なら聞くよ』
御幸の落ち込みように、部活関連の事かもしれない、と感じたはるはそう言った。
しかし、御幸の口から出た言葉ははるの予想とは全く別物だった。
「柳と付き合ってんの」
予想していなかった質問にはるは一瞬戸惑い、一呼吸おいて『付き合ってないよ』といった。
すると御幸は、伏せていた顔を上げ、はるの目を見た。
「手ぇ、つないでたのは?」
『私が資料とりたいのにもたもたしてたから』
「別にずっとつながなくてよくね?」
『そんなにつないでないと思うけど…』
「長かった」
『はい。すいません』
なんで私が謝るんだ、と思いつつ御幸に返事をする。
すると御幸は立ち上がり、伸びをした。
それと一緒にはるも立ち上がる。
「付き合ってないならよし」
『そういやそっちはどうなったの。あれ、告白だったんでしょ』
「さーて、そろそろもどるか」
『おい』
御幸は転がった缶ジュースを拾い始めた。
最後のジュースを拾うとはるにわたし、話した。
「断ったよ」
『あ、そーなんだ』
はるは平常心を保ちつつ、心の奥底でひそかにガッツポーズした。
「甲子園、行かなきゃなんないので、そういうことは控えてますって」
『へー、さすが』
「おれ、好きな子いるので付き合えません、て」
『へー、…え!?そうなの!?』
勢いよく御幸を見ると、御幸はいつものように悪そうな笑みを浮かべていた。
「最後のはうそ。言ってない」
『あっそ』
(そーだよ、こいつはこういうやつだった!)
はるは顔をそむけ、廊下に向かって歩き出した。
後ろでは御幸がにやにやと笑っている。
「俺、鉄さんに呼ばれてたからこっち。じゃーな」
その言葉にはるは御幸の方へ振り向いた。
御幸はこちらに向かって手を振り、少し声を張って言った。
「好きな奴いるのはまじだよ」
そのままはるとは反対方向へ歩いて行ってしまった。
はるはボー然とその場に立ち、少したって教室に戻っていった。
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教室に戻って友達にジュースを配り、急いでB組に顔を出した。
御幸はまだ戻ってきておらず、胸をなでおろし、倉持を呼んだ。
「なんだよ」
『ついに御幸に聞かれた!柳君の事!』
「へー。で、なんていったんだ」
『付き合ってないって言ったよ!それより御幸、好きな子いるらしいんだけど!』
「あー、知ってるわ」
『そうなの!?誰!』
倉持は面倒くさそうに頭を描くと、「そこまでは」といった。
『ほんとに?』
「しらねえ」
『……』
はるはなにか言いたげに少しうつむいた。
『…分かった。ありがとう。御幸と鉢合わせたくないから帰ります』
「おう」
すごすごと帰っていくはるを見ながら倉持はため息をついた。
(知ってるっつの。俺だけじゃなくて誰もがな!)