夏と青
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(こういうのを間が悪いというのだろうか・・・)
昼休みの終わるころ、5限目の生物の授業で使う資料を取りに来るよう先生に頼まれ、生物室に向かったはるだったが、生物室の前には他に2人の生徒がいたのだった。
それは御幸と他のクラスの女の子であり、そわそわとする女の子の様子から告白なのだろうと悟った。
校舎のなかで生物室は殆ど人が通らず目の付きにくいところにあるため、よくこのような光景が見られるのだ。
2人の姿が目に入ったはるは、あわてて廊下の曲がり角に隠れた。
そして、そっと2人の様子をのぞみ見ていた。
告白するのであろう女の子は横向で立っているが華奢な体つきと分かり、身長ははるより低い。肩まである髪の毛をふんわりと巻いており、可愛らしいリボンの髪飾りをつけている。160㎝と女子では高い方の身長で、普段寝癖を直すぐらいしかしないはるには、横を向いてあっても女の子がとても可愛らしく思えた。
(私には程遠いほど女子力高いな。てか御幸、やっぱモテんじゃん。倉持もこの前、御幸が告られてたって言ってたし・・・)
2人とは少し距離があり、何を話しているかは聞こえない。
ちらりと腕時計を見るともう少しで授業が始まるのが分かった。
(え~、どうしよ・・・。今出て行ったら完全に空気読めてないやつじゃん。でも授業が…)
と、一人で考えていると「何やってんの」と声を掛けられた。
びっくりして後ろを振り向くと同じクラスの柳(やなぎ)という男子が立っていた。
『柳君!こんなとこで何してんの?』
「いや、片桐こそ何してんの?おれは片桐が変な動きしてるの見えたから来ただけ。…うわ~、告白?しかも、人気の御幸君じゃないですか~。」
はるより身長の高い柳は、はるの頭の上から同じく顔を少しのぞかせ2人を見た。
『何言ってんの。柳君も普通にモテるよね。知ってるからね、2年のマドンナに告られたの』
「ははは、それほどでも~。ちゃんと断ったし」
柳は身長も高く、スタイルがいい。ビジュアルも女子から高評価でおまけにはると同じ特進クラスで成績も良い。明るい性格で女子だけでなく男子からの人気も絶大な、いわゆるイケメンなのだ。
「のぞきしてるとか良い性格してんじゃん」
『違うから!生物室に行って資料持ってきてほしいって言われたの!もうすぐ授業始まっちゃうしどうしようと思って』
「あ、そっか。次、生物か。…まあ、いんじゃね?時間も時間だし、2人で行けば怖くないでしょ?」
こそこそ話し合っていたはると柳であったが、そういうとおもむろにはるの手をつかんで生物室に向かって歩き出した。
『えっ、ちょっ…!』
慌てるはるだが、柳の足は止まらない。
自分たちの方に誰かが向かってきていると気付いた御幸達はそちらの方を向いた。
「はる」
御幸ははるの姿を目にとめると、すぐに柳と繋がれた手を見た。
「ほんとごめん。次の授業で使う資料とらせて!」
そういって柳はつないでいない方の手を顔をの前に出して謝っているようなポーズをしながら御幸達の横を通り過ぎた。
御幸ははるを目で追いかけ、女の子は顔を真っ赤にしていた。
急いで生物室に入ったははる達はドアを閉め、一息ついた。
「セーーフっ」
『いや、アウトでしょ!申し訳なさすぎる…』
額に手をやるはるの隣で、柳がニヤリと笑った。
「とか言って、気になってんでしょ。御幸がなんて返事したか」
『へ?…まあ、普通に気になるくない?あんな現場見ちゃったら。かわいい子だったし、どーなんのかなーとかは、思ったり…』
柳の質問に対して語尾が段々と小さくなっていく。
はるは両手で顔を包むようにをはさんで、照れ隠しをした。
「…それだけじゃないでしょ。好きなんでしょ、御幸のこと」
突然の発言にはるはバッと顔を挙げて柳を見た。
『そんなわけないじゃん!お、同じ部員だし、昔からの付き合いもあるし、余計気になるだけで…』
「分かるよ、そのくらい。ずっと見てたから」
はるは目を丸くした。
柳は優しい表情から一変して真面目な表情になった。
「…ほんとはこんなとこで言いたくなかったし、もっと仲良くなってから言おうと思ってたけど…。…片桐のこと、1年の時から好きなんだよ」
『え…』
「好きだったから、見てたし、そしたら片桐が誰を好きなのかなんてすぐわかったよ」
そういうとまた優しくはるを見つめた。
「なんか、御幸のこと考えてる片桐見てるの嫌だったから勢いで言っちゃった。」
『あ、でも…。…私、御幸が』
「あーーー!待って待って!まだ返事なし!片桐が御幸好きなの分かって行ってるわけだからさ、ちょっと頑張らせてくれない?返事はそのあとでしてくれたらいいし」
はるは「でも」と声を出しかけてやめた。
柳の手が少し震えているのが分かった。自分のために気持ちを伝えてくれたことを無下にできなかったし、自分の気持ちが相手に伝わらない辛さをはる自身分かっているからだ。
『分かった。じゃあ私、これから柳君とどう接したらいい?』
「ありがとう。ははっ、普通でいいよ。あ、俺が絡みに行ったら、いつもの2割増しの笑顔で接してくれたらなお良い」
『なにそれ。…こっちこそ、言ってくれてありがとね』
少し緊張が和らぎ、お互いに笑い合うと、机に置かれた資料を半分ずつもって生物室を出た。
まだ御幸たちがいるかもしれないと緊張したが、2人の姿はなかった。
授業が始まるため、足早に教室に戻ったのだった。