夏と青
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
1日の授業が終わり、はるはグラウンドに向かった。
更衣室でジャージに着替え、肩まである髪の毛を束ねる。他には誰もおらず荷物もない。
(私だけか)
用意を済ませ、外に出ると、干してあったウォータージャグを抱え、水道に向かった。
水道でスポーツドリンクを作っていると他の部員がやってきた。
「よぉ、はる」
『あ、純さん、亮さん!ちわっす!』
1つ上の先輩の伊佐敷と小湊だった。
小湊は不敵に笑った。
「聞いたよ、はる。朝は倉持と浮気してたらしいね」
『へ!?・・・あ!倉持か!してないですよ!そもそも付き合ってないです』
「なんだよはる~。お前らやっとその仲になったか~」
『んなわけ。純さんが好きな展開にはさせませんよ。亮さん、いつもの事ですが、倉持のたわごとに付き合うのはよしてください』
「さあ?おれはいつだって本当のように感じてるけど?」
にやにやと笑みを浮かべる先輩たちだったがはるの『準備があるので先行ってください!』の一言で去っていった。
(そんなにからかわれても私だってどうしようもないってのー!あのからかい上手の御幸の言葉にいちいち一喜一憂する私も私だけど…)
ひとりで悶々と考えながら準備をしていくと同じ2年のマネージャーの唯と幸子が走ってきた。
「ごめんね!授業が遅れちゃって!貴子先輩と春乃ももう来るよ」
『いいよいいよ。いつもは私の方が遅いし。ドリンクは作っちゃったし、氷はまだ用意してないよ』
「よっしゃ、私が行ってくるわ」
「任せた幸子!私たちはライン引こ」
バタバタとマネージャーの仕事を行っていく。
名門校の野球部なだけあって部員や練習量が多いほど仕事も多く、すぐに時間が過ぎていく。
いつの間にか空は暗くなり、練習も終わりに近づいていた。
「今日はここまで!」
監督が練習を締め、部員たちはクールダウンを始める。マネージャーたちも片づけをはじめ、自分たちの身支度を済ませる。
はる以外の4人が制服に着替え、更衣室から出てくる。
「今日もお疲れ様。じゃあ、無理しない程度によろしくね」
「ほんと、いつもありがとうね」
はる以外のマネージャーは家から通っているため、遅くならないよう練習が終われば帰宅するが、はるは実家が遠く学校の寮を借りているため、グラウンドから5分程度で変えることができる。
そのため、毎日はるだけ居残り、空いている倉庫でボールを磨いてから帰る。
マネージャーを見送り、ボールが入ったコンテナを抱えると倉庫に向かった。
倉庫にいくつか置かれたパイプ椅子を2つ引っ張り出し、1つは自分用に、もう一つは少し離して置いた。
椅子に座るとはるはコンテナからボールを1つ取り出しタオルで磨いていく。
10個ほど磨いたところで開けっ放しの倉庫のドアから誰かが顔をのぞかせた。
「よ、お疲れ」
『お疲れ。今日は御幸なんだね』
顔をのぞかせたのは御幸だった。御幸は倉庫に入ってくるとはるの前に置かれた椅子に座った。
「今日は、てなに?」
『昨日はゾノ、その前は純さん、その前は・・・だれだったか・・・倉持?』
「なに、そんなしょっちゅう誰かくるわけ?」
『毎日じゃないけど、割とのぞいてくれるよ。亮さん来たときは鳥肌立ったけど』
「それはみんなだろ」
はるがひとりでボールを磨いていると部員たちがよく顔をのぞかせるのだ。
はじめはたわいもない話をするが段々とはるへの相談になることが多い。御幸もその一人でよく顔を出す。
そのためはるは自分が話を聞くことで部員が野球をがんばることにつながるなら、といつも椅子を2つ用意するのだ。
「はじめは俺しか知らなかったのに」
『別に隠れてやってるわけじゃないしね。今から自主練?』
「そう。でもちょっと休憩」
そういうと御幸は背もたれにもたれ、息をついた。
『・・・ねえ、朝のああいうの、あんまいわないで』
「ああいうの?」
『・・・浮気、とか。結局いじられるの私だし』
御幸は苦笑いをする。
「今日は亮さん?」
『と、純さん。部内だとあんまだけど、他の女子たちに聞かれんの、あんま宜しくない』
「ほかの人に知られたくないってこと?」
『や、ほら、あんたのこと好きな子、いっぱいいるし』
「ふーん、」
ボールを磨きながら御幸と目を合わさないよう話す。御幸は椅子から立ち上がり、「まあ、ほら、はるっていじりがいるから」と笑いながら言うと手を振りながら倉庫から出て行ってしまった。
残されたはるは手を止め、ため息をついた。
(・・・流された。やっぱいつものからかいに他意はないのか)
ボールを握りしめると、再びボール磨きを再開した。
その後、他の部員が入ってくるとはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
倉庫から出た御幸は一人空に向かってため息をついた。
(おれよりほかの女子の心配かよ)
紛らわすように自主練を行うのであった。