夏と青
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”ジャージに着替えていくから門の前で待ってろ”
倉持からそんな連絡が入っていた。
(帰ったらそのまま自主練行くからか。了解っと)
倉持からのメールに返信をし、はるも寮へ重い参考書たちを置くと財布だけ持って門に向かった。
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『あ、御幸』
門で待っているとジャージを着た御幸がはるの前にやってきた。少し不機嫌そうな表情をしている。
『今から自主練っすか?』
はるは御幸の様子には気づかず声をかけた。
「お前と買い出し」
『え?』
はるのきょとんとした表情を見て御幸は続けた。
「いやなの」
御幸の問いにはるは言っていることがやっとわかり戸惑った。
『え、御幸、自主練は?てか、倉持は?倉持から聞いたの?』
「倉持から変わってくれって言われたんだよ。自主練は帰ってからする」
『…いいの?』
「いやだったら来てねーよ。で、いやなの?」
『…いやじゃない』
「ん。行くぞ」
御幸はすたすたと先に歩き出した。
『あ、待ってよ』
はるは急いで御幸を追いかけた。戸惑いの反面、御幸との二人の時間ができたことに嬉しさが込み上げてきたのだった。
(…なんか、機嫌悪い?怒ってる?倉持に押し付けられていやだったのかな)
一緒に歩き始めた2人であったが、御幸が一言も話さないことにはるは困惑していた。
「あのさ、」
『うん』
御幸は重たそうに口を開いた。
「なんで倉持なわけ」
『へ?』
「買い出し誘ったの」
『あー…。丁度倉持と話してるときその話になって、行く?みたいな』
「俺に言えばいいだろ」
『だって御幸、自主練すると思って』
「倉持だってするだろ」
『まあ、そうなんだけど…。でも御幸に行ったら迷惑かなって。…もしかして買い出し誘わなかったから怒ってる?』
はるがそう尋ねると、御幸はちらりとはるのほうを向き、また正面に向き直った。
「普通に怒ってる」
『え、ごめん』
はるは咄嗟に謝った。
「それは何に対してのごめん?」
『えーと、御幸も行きたかったのに誘わなかったから?』
「違う」
『じゃあなに』
御幸は小さくため息をついた。
「好きな子がほかの男と二人で出かけるのを素直に見送れるわけないだろ」
『あ、ごめん。…でも御幸、倉持はいいって』
「それは普段話すときとかであって前と同じようにこういうこと続けられてたら普通に妬くから。つか、前までも嫌だったし」
『そ、そっか』
御幸の嫉妬にはるは申し訳なく思うと同時にやはり少しうれしさを感じた。
『ふふ』
「なに笑ってんだよ」
御幸はふてくされた様子ではるのほうを向いた。
『いや、御幸って私のことすきなんだなー、て』
「はあ?なんだそれ、てか俺は怒ってんだけど」
『はい、すいませんでした。次からは一人で行きます』
はるはふざけて敬礼するようにそう言った。
御幸は眉間にしわを寄せた。
「…違うだろ」
『何が?』
「こういう時は俺を誘えばいいじゃん。こういうときでしか2人の時間作れないでしょ」
御幸の発言にはるはぽかんと口を開いた。
『いやでも、御幸、練習…』
「そうだけど!別に1時間も開けるわけじゃないし!」
『迷惑じゃ「ない」…』
御幸は覆いかぶさるように否定し、歩いていた足を止めるとまくしたてるように言った。
「あのな、全然迷惑とかじゃないから。むしろこういうことはどんどん言ってくれ。はるが変に俺に気ぃ使ってくれてんのはわかってるし、ありがたい。でもちょっとぐらいわがまま言ってくれていいから。さすがに練習休んでどっか行こうとか言われたら困るけど…」
いきなり話し始めた御幸にはるは驚いた。
『…いいんだ』
「つか、俺だってお前と少しでも時間作って会いたいと思ってる。じゃないとほかの男にイライラして練習に集中できない」
『なにそれ。うれしい』
はるは再び微笑んだ。
御幸は照れ臭そうにまた歩き始めた。
「だーから、俺は怒ってんだって」
『はいはい。わかってます。アイスおごったげるから機嫌なおして』
「…許す」
(なーんだ、私が考えすぎてただけか。今度お昼誘ってみよ)
はるは嬉しそうに御幸の後を追いかけた。
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「お、嫉妬深い男のご帰還だな」
土手で素振りをしていた倉持のところへ御幸がバットを持ってやってきた。
「なんだその満足そうな面は」
「いやー、そんなことないですって。うらやましがらないでくださいよ~」
「誰もそんなこと一言も言ってねーだろ!毎度振り回される俺の身にもなれ!」
「その節はどーも~」
倉持は怒りながらにじむ汗をタオルで拭いた。
「で、誤解はとけたわけ」
「まーな。ほら、うちのはるちゃんピュアだから俺に奇異使いすぎてたみたい」
「知ってるよ!」
「冗談はさておき」
「あ?なんだよ」
ふざけていた御幸の表情が消え、視線が鋭くなった。そして倉持の方にポンと手を置いた。
「また、こういうことがあったら教えてね。もちろんほかの男でも」
倉持は背中に悪寒を感じた。
「だっから!お前らは毎度毎度俺を巻き込むなぁ!」