夏と青
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はるは朝から緊張した面持ちであった。
決心はついたものの結局は緊張であまり眠れていなかった。
下駄箱で靴を履き替えているとだれかが声を掛けてきた。
「おはよ。眠そうだけど、昨日寝るの遅かったの?」
声のする方を向くとそこには笑顔の柳が立っていた。
(あなたのその笑顔がまぶしいですッ・・・!)
はるは心の中でそう叫ぶと柳に返事を返した。
『うーん。そうだね。ちょっと授業の復習に時間かかっちゃった。難しくなかった?』
「確かに。俺なんか途中で考えるのやめて諦めて寝ちゃったよ。休憩時間に教えてくれない?」
『いいよ。』
「やった、助かる。じゃ、おれ今日日直だから先行くね」
普段通りの会話にはるは少し驚いてしまった。
(あれ、これ、今日返事するんだよね。柳君めっちゃいつも通りじゃね?)
と考えていると、柳が先に歩いていく前に耳打ちしてきた。
「返事なんだけどさ、学校じゃ言いにくいだろうから、部活終わってから電話してもいい?」
柳の顔を覗くと少し赤くなっているのが分かり、はるはさらに緊張することになってしまった。
『いい、よ』
固まるはるに柳はにこりと笑いかけ去っていった。
(今日の夜までこの緊張は続くのか)
はるは胸に手を当て口から小さく息を吐いた。
その様子をちょうど登校してきた御幸と倉持が少し離れたところから眺めていた。
「どーすんの。」
倉持は御幸に目線をやった。
「さあ、なるようになるんじゃねーの。」
と話すと御幸は教室に向かって歩き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
授業、部活を終え、部員は自主練に入っていた。
はるはいつものように倉庫でボール磨きを始めた。
柳に電話をする時間が近づいていることで緊張が少しづつ高まってきており、磨く指に力がこもる。
「めっちゃ集中してんじゃん」
聞きなれた声がし、その方向を向くと倉庫の出入り口に体の片側を預けるようにして御幸が立っていた。
はるにとって今一番会いたくない相手であった。
『そう、ちょーーう集中してるから邪魔しないで』
そういうと御幸に向け、片方の手で払うようなしぐさをした。
「はるを大事に大事にしてくれる柳君の事を考えてるから?」
『え』
そういうと御幸はいつも座るパイプ椅子をはるの前に持っていき対面するように座った。
『何それ。なんで柳君の話になんの。その話だいぶ前に終わってるくない?』
はるはごまかすようにボール磨きを再開した。
「終わってねーよ」
御幸の低い声に体をピクリと震わせた。怒っている?と感じ視線を御幸に戻すと御幸は腕と足を組み、背もたれにもたれこちらをじっと見つめていた。
(なんか知らんけどおこってらっしゃるー?)
黙っていれば諦めるかもしれないと思い、視線をボールに戻し、数個のボールを磨いたが、ただひたすら黙ってはるを見つめる視線に限界を感じ、諦めて手を止めた。そして、御幸のほうを向いた。
『あー、その、柳君のことなんでしってんの、って、倉持しかいないか~』
ははは、と笑うはるであったが、その裏腹で倉持を締めよう決意した。
「そうだな。お前こういうこと倉持にしか言わねえもんな」
棘のある言い方に余計に緊張感が増す。
『嘘ついてたのはごめんね。』
「で、付き合うことにしたの」
『いや~、それは言いにくいお話ですなあ!まだ本人にも何とも「知ってる」・・・え?』
「今日、柳から聞いた。帰ったら電話するんだって?」
想像していなかった御幸の発言に混乱する。
『え、なんで知ってんの』
「俺が柳に聞いたから」
顔色を変えず淡々と答える御幸にはるは少しずつ苛立ちを感じ始めていた。
『ちょ、待って。なんでそんなこと聞きに行くわけ?』
「はるが教えてくんないなら自分で聞くしかないじゃん」
『全然話が見えないし、御幸の機嫌が悪いのも意味わかんない。この話、御幸全く関係ないよね。なんでそんなことすんの。からかいたいだけならまじで立ち悪いんだけど。』
「関係あるから勝手に首突っ込んだんだよ」
御幸の発言に余計はるは混乱した。
『なんで?』
はるの質問に御幸は目線を下げ、深くため息をつくと、再びこちらをまっすぐ見つめた。
「俺がはるを好きだから」
突然の告白にはるの頭は真っ白になった。
『うそ、絶対うそ』
「嘘でこんなこと言うわけねえだろ」
『全然うそだ。御幸がそんなこと言うはずない』
はるはごまかすように笑った。しかし、御幸は表情を崩さず、まっすぐはるを見つめている。
『だって、いっつも私なんか眼中にないって感じで絡んできてたじゃん』
「そもそも眼中になかったら話しかけねえよ」
『かわいいこにいっぱい告られてたじゃん』
「それは・・・おれのせいじゃなくね?」
『それに・・・』
「はる」
気が付くと御幸の表情はいつものはるを見つめる優しいものに変わっていた。そして自分が今にもあふれ出しそうなほど涙を目にためていることに気が付いた。
「泣くほどうれしかった?」
頬を緩ませながら話す御幸を見ていると、どんどん涙があふれだしてきた。
「えー。ちょ、待ってー。なんでなんで」
慌てた様子で近づいてきた御幸の胸にこぶしで思い切りたたいた。
『いつ、も、いつも、冗談、ばっか、言って、おもしろ、っがてる、から、また、冗、談、なのかと、おもっ、た』
鼻をすすりながら答えると御幸は苦笑いした。はるの前にしゃがむと頭を撫でた。
「はるちゃんの反応がかわいくて。でもやりすぎてたな。ごめんな」
『ゆるざん・・・』
「えー・・・。おれどうしたらいいの」
御幸は苦笑いしながらどこか嬉しそうにそうつぶやいた。
はるは一呼吸置くと小さな声で伝えた。
『・・・もっかい好きって言って・・・』
普段のはるなら、ジュースおごれ、だの言うと考えていたが予想外にかわいい返事に御幸ははるを愛おしそうに見つめた。そして頭をなでていた手に力を込めると、はるを自分の身体に引き寄せた。「わ」と小さくつぶやくはるがさらにかわいいと感じた。
「じゃあ、はるちゃんが信じてくれるまで何回でも言いましょう。俺は、はるが好きです。柳のものにしたくないです」
はるは、今が現実であると受け止めることができていなかった。御幸から告白され、腕の中にいることが現実とは全く思えなかった。
御幸の腕の力が緩み、少し距離ができ、お互いが見つめある形になった。泣いている顔を見られたくなくてうつむき加減になるはるに御幸が語り掛ける。
「返事をまだもらってないんだけど」
『この展開でわからんのか』
花をすすりながら御幸をにらむと御幸はとぼけながら笑っていた。
「はるの口からききたいんだよ」
再び御幸に見つめられ、はるは観念した。
『・・・私も御幸が好きです・・・』
その言葉を聞くと御幸は満足そうに微笑えんだ。