小話
パシャリ。
突然聞こえたシャッター音。
音が鳴った方へ体を向けると、カメラを構えた男がその場に立っていた。
勝手に撮るんじゃないと口を開こうとするが、構えられたカメラに視線がいく。
私が若い頃に流行っていたインスタントカメラだ。
最近までめっきり見なくなっていたが、可愛らしいフォルムや撮った写真が直ぐに現像されるとかで、今の若者に注目されて再び人気になっているらしい。
以上の理由から、若者であるこいつがそのカメラを持っているのは納得できる。
しかし、その手にあるのはどうみても今どきの可愛らしいフォルムとはかけ離れ、明らかに年季の入った古びたインスタントカメラである。
何故、お前が持っているんだ。
気になって仕方がない。
好奇心に負けてしまい、それはどうしたんだと持ち主に尋ねる。
この前実家へ帰った時に物置きから偶然見つけて、捨てるのもなんだし貰ったとのこと。
あぁ、そういうことか。
「長年放置されたみたいで、ちゃんと動くか不安だったんですけど……」
「あ、出てきました」
カメラから出てきたばかりのフィルムは、真っ白で何も写っていない。
だから、少し時間を置く必要がある。
しばらくすると、目の前の男のフィルムを眺める表情が変わったので、写真が浮かび上がったのだとわかった。
長年眠っていたカメラが壊れていなかったと証明できた瞬間である。
そんなことを考えていると、突然ポケットからペンを取り出し、出来上がったばかりのフィルムに何かを書き始める。
書き終えたのだろう。
ペンをポケットに戻し、こちらへ近づいてくる。
どうぞと、自分の姿が写っているはずのフィルムを私に渡してきたので、渋々受け取ることにする。
渡されたフィルムには、デスクに向かって黙々と資料に目を通す私の姿が写っていた。
余白には今日の日付に、撮影者の名前と、私の名前、そして小さく、メッセージが添えられていた。
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