妖怪仙人山鳥毛さんが琴の妖精小鳥ちゃんを人界に退治にいく話。
――――この世に永く在った力のある鳥獣や器物は、魔性を帯びることがある。
魔性を帯びたモノを妖精と呼び、妖精が修行を積んで力を得たものを妖孽と呼び、妖孽がさらなる鍛錬を積んで力を練り上げたものを、妖怪仙人と呼ぶ。妖怪仙人とは、妖でありながら仙の道をゆき、至るを得たものたちのことである。
かれら妖怪仙人は、妖の理を守ること、乱れを粛清し、正しき流れへ導くことをつとめとする。
「天犬混じりの龍が人間を襲う?」
「そうなんだ。さいわいにしてまだけがにんもしにんもでていないが、ずいぶんなかずのにんげんがおそわれているらしい」
この仙境でも特に険しい霊山に洞を構える刀の妖怪仙人、山鳥毛(本来の美々しき道号は威名にあった長々しきものであるので、彼の近辺のものらは主に山鳥毛、または、お頭、と呼んだ)はその日、同じく刀の妖怪仙人である友のおとないを受けていた。
妖怪仙人は、己自身の鍛錬を積むだけでなく、後進の妖精や妖孽を弟子として育てる役割をもつ。そしてそれだけでなく、人と妖の理を乱すモノあらば、排除する、という責務を負っている。今回山鳥毛に持ち込まれたのもそういった案件であった。
「それにしても龍が天犬混じりとは珍しい」
「りゅうはほんらい、りゅうじんのかんかつだが、どうやらきぶつのようせいがりゅうになったもののようだ。そのうえてんけんまじりなので、りゅうじんれんちゅうはそんなものはどうぞくではないと、むしをきめこんだらしい」
「なるほど。龍神どもが投げたので我々妖が始末をつけねばならぬということか」
彼は友の説明を聞くとともに、仙界上層部からの指令書に目を落とす。
情報を整理すると、人間が襲われる範囲は狭い。襲われる状況もほとんど同じで、夜に街道を抜けようとするとどこからともなく尨犬(むくいぬ)のような蜥蜴のような化け物が駆けてきて、人間の膝に飛びつくのだという。人間が逃げれば追ってはこない。膝に飛びついたあと、化け物が琴になったという証言があることから、器物、それも琴の妖精が化け物の本性と思われた。
「龍宿しの琴なのか? 筝ではなく?」
「ざんねんながら琴のようだ。げんは、ななほん」
「……七弦の琴は賢者の楽器、聖王の楽器だろう。それが龍宿しとなれば……」
「つめのかずはごほんであるかのうせいがひじょうにたかい」
琴という楽器は、古来からただの楽器ではなく、思索や修身のための道具として用いられてきた。その音、奏法そのものが哲学といわれる。位の高い器物ゆえに、妖精となっても哲人然として人間に寄り添って在ることがほとんどで、龍を宿す、つまりは、高位の妖の卵になることは滅多にない。しかしその反面、もし龍を宿したならば、その妖精の格が損なわれでもしていない限りは――――必ずやそれは、五爪ニ角の、最高位の龍に成る。
五爪二角の龍であればまだ妖精であったとしても、並の妖怪仙人では太刀打ちできまい。
「おまけにどういうわけか、てんけんがまざっている」
「禁呪で混ぜモノを造り、人間を襲わせている奴がいる可能性がある、ということか。龍神どもが投げ出すわけだ。厄介だな」
しかもその龍に、天犬、則ち、戦乱の予兆である赤い凶獣が混ざっているという。死人が出ていないのは奇跡と思えた。だが何かの弾みで人肉の味を知れば、村が一つ二つ消えるだけでは済むとは思えない。
また、何もしなければ龍という高位の霊獣に天犬が混ざるわけがないのだから、何者かの作為が働いているとみるべきだ。龍退治と並行して背後を洗う必要もある。
「はやめにしまつしたい。りゅうとしてどれほどそだっているかにもよるが、ほんしょうが琴なら、やくか、きるかすればたおせるはずだ」
「それで私に?」
友は人好きのする笑顔で頷いた。山鳥毛は、その本性は古の名刀、火精と金精を併せ持つだけでなく、そのどちらをも自在に使い熟すという稀有な妖であった。焼くのも斬るのも、彼に並ぶ物は仙境にでさえ少ない。
始末すべき相手が天犬混じりの龍であることから、可及的速やかに退治する必要がある、倒したならば琴の断片か天犬の首かを、真君――号をお呼びするのすら恐れ多いので、多くの妖怪仙人たちは畏れ敬って通称で、大包平様、とお呼びする――の元へ持参すること。
仙境のなかでもさらに上位のものらの取り決めた指令を山鳥毛に伝えると、友は
「きみも、はごたえのないしごとではつまらないだろう。いまはでしもいなくてひまだろうから、りゅうたいじでぶりょうをなぐさめるといい」
と再度笑み、茶を啜った。
魔性を帯びたモノを妖精と呼び、妖精が修行を積んで力を得たものを妖孽と呼び、妖孽がさらなる鍛錬を積んで力を練り上げたものを、妖怪仙人と呼ぶ。妖怪仙人とは、妖でありながら仙の道をゆき、至るを得たものたちのことである。
かれら妖怪仙人は、妖の理を守ること、乱れを粛清し、正しき流れへ導くことをつとめとする。
「天犬混じりの龍が人間を襲う?」
「そうなんだ。さいわいにしてまだけがにんもしにんもでていないが、ずいぶんなかずのにんげんがおそわれているらしい」
この仙境でも特に険しい霊山に洞を構える刀の妖怪仙人、山鳥毛(本来の美々しき道号は威名にあった長々しきものであるので、彼の近辺のものらは主に山鳥毛、または、お頭、と呼んだ)はその日、同じく刀の妖怪仙人である友のおとないを受けていた。
妖怪仙人は、己自身の鍛錬を積むだけでなく、後進の妖精や妖孽を弟子として育てる役割をもつ。そしてそれだけでなく、人と妖の理を乱すモノあらば、排除する、という責務を負っている。今回山鳥毛に持ち込まれたのもそういった案件であった。
「それにしても龍が天犬混じりとは珍しい」
「りゅうはほんらい、りゅうじんのかんかつだが、どうやらきぶつのようせいがりゅうになったもののようだ。そのうえてんけんまじりなので、りゅうじんれんちゅうはそんなものはどうぞくではないと、むしをきめこんだらしい」
「なるほど。龍神どもが投げたので我々妖が始末をつけねばならぬということか」
彼は友の説明を聞くとともに、仙界上層部からの指令書に目を落とす。
情報を整理すると、人間が襲われる範囲は狭い。襲われる状況もほとんど同じで、夜に街道を抜けようとするとどこからともなく尨犬(むくいぬ)のような蜥蜴のような化け物が駆けてきて、人間の膝に飛びつくのだという。人間が逃げれば追ってはこない。膝に飛びついたあと、化け物が琴になったという証言があることから、器物、それも琴の妖精が化け物の本性と思われた。
「龍宿しの琴なのか? 筝ではなく?」
「ざんねんながら琴のようだ。げんは、ななほん」
「……七弦の琴は賢者の楽器、聖王の楽器だろう。それが龍宿しとなれば……」
「つめのかずはごほんであるかのうせいがひじょうにたかい」
琴という楽器は、古来からただの楽器ではなく、思索や修身のための道具として用いられてきた。その音、奏法そのものが哲学といわれる。位の高い器物ゆえに、妖精となっても哲人然として人間に寄り添って在ることがほとんどで、龍を宿す、つまりは、高位の妖の卵になることは滅多にない。しかしその反面、もし龍を宿したならば、その妖精の格が損なわれでもしていない限りは――――必ずやそれは、五爪ニ角の、最高位の龍に成る。
五爪二角の龍であればまだ妖精であったとしても、並の妖怪仙人では太刀打ちできまい。
「おまけにどういうわけか、てんけんがまざっている」
「禁呪で混ぜモノを造り、人間を襲わせている奴がいる可能性がある、ということか。龍神どもが投げ出すわけだ。厄介だな」
しかもその龍に、天犬、則ち、戦乱の予兆である赤い凶獣が混ざっているという。死人が出ていないのは奇跡と思えた。だが何かの弾みで人肉の味を知れば、村が一つ二つ消えるだけでは済むとは思えない。
また、何もしなければ龍という高位の霊獣に天犬が混ざるわけがないのだから、何者かの作為が働いているとみるべきだ。龍退治と並行して背後を洗う必要もある。
「はやめにしまつしたい。りゅうとしてどれほどそだっているかにもよるが、ほんしょうが琴なら、やくか、きるかすればたおせるはずだ」
「それで私に?」
友は人好きのする笑顔で頷いた。山鳥毛は、その本性は古の名刀、火精と金精を併せ持つだけでなく、そのどちらをも自在に使い熟すという稀有な妖であった。焼くのも斬るのも、彼に並ぶ物は仙境にでさえ少ない。
始末すべき相手が天犬混じりの龍であることから、可及的速やかに退治する必要がある、倒したならば琴の断片か天犬の首かを、真君――号をお呼びするのすら恐れ多いので、多くの妖怪仙人たちは畏れ敬って通称で、大包平様、とお呼びする――の元へ持参すること。
仙境のなかでもさらに上位のものらの取り決めた指令を山鳥毛に伝えると、友は
「きみも、はごたえのないしごとではつまらないだろう。いまはでしもいなくてひまだろうから、りゅうたいじでぶりょうをなぐさめるといい」
と再度笑み、茶を啜った。
