5話「全力疾走×全面抗争」

数日後、あいり達は大輝の家に集まることとなった。
「君達に集まってもらったのは他でもない。煌木組の運営に忙しいキキリノ達に代わって、プリキュアの真実を教えようと思うんだ」
エスポが指を鳴らすと、リビングのテーブルの上にグリッタリアのひな人形やプリキュアの歴史に関する資料が現れる。

「リリス…」
エスポはひな人形の上段に飾られている花嫁の人形を手に取る。花婿の人形はエスポに似ていた。
「リリスって…最初のプリキュア、キュアプライムなのか?」
「そうだよ…」
大輝が聞くと、エスポは頷く。そして、昔を思い出すように話し始めた。
「リリスは最初の人類の一人で、最初のプリキュアだった。リリスは16歳で同じく最初の人類だったアダムと結婚する運命だったけど、彼女はそれを拒んで守護霊である僕と結ばれたんだ」
エスポはリリスを模した花嫁の人形をそっと置く。その手つきは、愛する女性をいつくしんでいるように見えた。
「僕とリリスはエデンを出て、妖精の楽園とも呼ばれるグリッタリアで暮らした。日本のひな人形も実はグリッタリアから伝えられたものなんだ」
「ひな人形って、そんな歴史があったんだね…」
ゆあが感嘆すると、大輝が補足する。
「日本の流しびながグリッタリアに漂着したから、グリッタリアの使節団が日本にひな人形を飾る風習を教えたんだ」

続きを話そうとして、エスポの表情が曇る。
「幸せな日々は長く続かなかった…僕はリリスに先立たれたんだ。それどころか、プリキュアの歴史は苦難の連続だったよ…特に魔女狩りは酷かった」
エスポはそう言うと、純白の鎧を着たピンクのショートヘアの少女の文献を手に取る。
「ジャンヌ・ダルクもプリキュアだった…彼女の恋人にはジル・ド・レがいたんだけど、魔女裁判にかけられて処刑されたんだ。遺されたジル・ド・レもおかしくなってしまって、見ていられなかったよ…」
フランス救国の英雄であるジャンヌ・ダルクがプリキュアだった。しかも、戦友のジル・ド・レが「プリキュアの恋人」だったという事実に驚きを隠せないあいり達。
その様子を見て、大輝がフォローするように補足する。
「驚くのも無理ないよな…ジャンヌ・ダルクがプリキュアだったという真実は都合の悪い歴史だからな」

エスポの表情が少し明るくなって、こう言った。
「さらに時代が進むと、プリキュアを取り巻く状況が少しずつ好転していったんだ」
そう言いながら、華やかなドレスとクラウンを身にまとった美しい女王の文献を手に取るエスポ。
「イギリスのヴィクトリア女王はプリキュアの活動に理解のあるお方でね…プリキュアになれた少女は身分を問わず女王に謁見することができたんだ」
そう言って、エスポは文献である本を開いてヴィクトリア女王に謁見する少女達の挿絵を見せる。その挿絵には令嬢だけでなく、メイドだった少女もヴィクトリア女王に謁見している。
大輝がその挿絵を見ながら補足した。
「ヴィクトリア朝のイギリスでは、プリキュアになれたら人生逆転のチャンスとも言われてたほどなんだ。この時代のプリキュアは王宮で豪華なアフタヌーンティーもやってたそうだぜ」

そして、エスポは本を閉じると続けた。
「20世紀になると女性解放運動が活発になって、フラッパー・ガールやモダン・ガールが世界中に誕生した。その中にはプリキュアも多くいたよ」
そう言って、ショートボブにクロッシェ帽を被って、ひざ丈のワンピースを着た若い女性のブロマイドを見せる。そのブロマイドには日本で撮影されたものもあった。
「ウーマン・リブを先導したのもプリキュアだと言われている。そして、今から20年以上も前にプリキュアはアニメになったんだ」
「そのアニメのプリキュアって、日曜日の朝にやってる…?」
颯人の質問に、エスポは頷く。
「そうだよ…もっとも子供向けのアニメとして作るために大幅に修正が加えられたものだけどね」

エスポの話を聞いて、颯人とあいりが呟いた。
「プリキュアって、俺達が想像するよりずっと長い歴史があったんだな…」
「知らなかったよ…」
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