3話「黒と紅の彩り」

刹那とまことが愛須市外に逃亡する前日のこと…。
「…やっぱり、死神も普通の人間だったんだ」
みつきが言う。この日、刹那は妻の家族にあいさつに行っており、明日になれば愛須市に出ることを伝えているようだ。

「刹那って学校も行けてないんだよね…逃亡先で暮らせるのか?」
「わかんねぇが…煌木組がいろいろ手配してくれるらしい」
レンと大輝が刹那のことについて話す。あいりも話に加わった。
「お姉ちゃんは学校に通えていたから、お姉ちゃんに頼らないと生きていけないんじゃないかな…」
「問題は愛須市の裏社会で生きていた夫婦が逃亡先で平穏に暮らせるかだよな…」
愛須市の外で暮らす颯人が、月夜野夫婦の今後を懸念する。

確かに長年裏社会で暮らしてきた学のない、しかも「死神」と呼ばれる殺し屋で多くの人の命を奪ってきた刹那が、愛須市の外で生きていける保障はない。
子を宿した妻を守るために、困窮した結果犯罪を犯す可能性だってある。
刹那はここ数日で、愛須市の外で何をやったら犯罪かを学んできた。だが、長年にわたり染みついた価値観を簡単に変えることができないかもしれない。

「…やっぱり、難しいよね。死神と呼ばれた人がいきなり普通の人に戻って、愛須市の外で生活するなんて…でも、もう愛須市で暮らせないんだよね」
ゆあも不安を感じる。だが、刹那達夫婦が愛須市では幸せに暮らせないことも知っていた。
「…あいつもそれぐらい覚悟してるんだろう」
大輝も目を伏せて言った。

あいりが帰宅すると、まことと刹那が出迎えてくれた。
「ただいまー」
「おかえりなさい、あいり」
「まこと、休まなくていいのか?」
「ええ、大丈夫よ…今はそんなに体調が悪くないから」
話を聞くと、刹那は逃亡前日は花房家に泊まることになっているようだ。
「お姉ちゃん、今日は食べられそう?」
「うん、明日のために体力をつけておきたいから」
話を聞くと、まことのつわりは治まっているようだ。

あいりも姉の送別会を手伝って、両親とともに食事の準備もした。
「お母さん、お姉ちゃんは今日は食べられそうだって」
「そう、奮発したかいがあったわ」
母の美希は笑顔で言った。長女が妊娠した時はそんなに驚いてはいなかったが、心配していたのだ。

この日の夕食は、あいりは両親や妹、そして姉夫婦と食べたようだ。
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