2話「月夜の死神と愛の女神」

あいり達は、大輝に連れられて貧民街に行くことになった。
「酷い…愛須市にこんなところがあるなんて」
あいりは貧民街のボロボロの街並みを見て呟く。
「颯人くん、行ったことあるの?」
「うん、あいりちゃん…俺から離れないでね」
颯人は貧民街であいりのような少女が一人でいたら、危ない目に遭うことを知っていた。あいりもそれをわかっているようで、頷く。

貧民街の公園のベンチには、ひなが座っている。ひなの隣には、10歳くらいのぼさぼさのピンクがかった茶髪の少女が座っている。
「ひなちゃん、ありがとう!」
「お礼が言えるなんて、ゆめちゃんはえらいねー」
「いただきまーす」
「ゆめ」という名前の少女は、ひなにおごってもらったであろうイチゴメロンパンを頬張る。

その様子を見守りながら、大輝は言う。
「ひなちゃんって、貧民街の子供にも好かれてるんだな…」
「話聞いてみる?」
みつきが聞くと、ゆあが公園に止まっているワゴン車に気付いた。
「このワゴン車でイチゴメロンパンを買ったみたい。ひなちゃんに話を聞いてみよう」
「イチゴメロンパン…食べたいなぁ」
「花房がよだれ垂らしてどうするんだよ…」
「とりあえず、公園に入ろう」
あいり達は公園に入った。

「お母さんにおみやげ買いたいから、もう一個買って」
「オッケー…あ!あいりちゃん!みんな!」
ひなが立ち上がろうとすると、あいり達に気付いた。
「ひなちゃん、この子って?」
あいりが聞くと、ひなが答えた。
「この子はゆめちゃん!この貧民街で暮らしてる子で、お母さんと二人で暮らしてるんだって」
「お母さん…か」
ひなの会話を聞いて、大輝の表情が曇る。何か思い出したくないことがあるのだろうか?
「大ちゃん、大丈夫…?」
「俺は大丈夫だ…なんかごめんな」
みつきと大輝の話を聞いて、ひなはこう言った。
「貧民街でゆめちゃんくらいの年齢でお母さんが生きているって、運がいいよね…うらやましがる子も多いみたい」
あいり達はひなの話を聞いて、自分たちは恵まれていると痛感した。

ゆめはひなにイチゴメロンパンを買ってもらった後、お礼を言って公園を出て、貧民街を走って行く。
「ゆめちゃん、どこに住んでるんだろう?追いかけよう!」
あいりが尾行しだしたので、他の5人もついていく。
ゆめは今にも倒壊しそうな家の中に入って行った。こっそりゆめの入った家の中を覗くと、ゆめによく似た20代くらいの女性が、娘からイチゴメロンパンを受け取って食べていた。
「ありがとう…ゆめは優しいわね」
ゆめの母親は優しく、娘の頭をなでる。ゆめは得意気な表情をしていた。
8/19ページ
いいね