3章「The Way of Swords」

桜梅屋おうばいやは昼店では主に和食を提供している飲食店である。
ハナ達はそこの畳の席に座って、集めた情報を整理していた。畳の席は「宴会席」とも言われており、休日なら家族連れにも好評である。

「サクハナに営業できない店が何軒もあったな…」
フウトは料理を待っている間、考え込む。横に座っているハナが言った。
「サクハナの花魁道中をテレビで見たことあるけど…花魁道中やってなかったね」
「あれだけ被害出てたら花魁道中もできないよ…被害総額も高そうだし」
ミサキはアクアがそんなことをしていると信じたくないのか、少し動揺しているようだ。
「でも、外食ってワクワクするよね!」
ダイチの横に座るアースが笑顔で言う。さすが食いしん坊、どんな理由であれ行く店のグルメをいただこうと楽しんでいる。
「そうですね!今はエーテルのことは忘れて…」
「いや、忘れるな」
ハルが言おうとした時、フウトが言い放った。エーテルのことでピリピリしているようだ。
「エーテルのせいで営業できなくなってる店もあるんだぞ。花魁道中もできないほどだから危険なんだ…」
しょんぼりしているハルを見て、フウトは優しいフォローに切り替える。
「今の僕達ができることは桜梅屋でたくさん食べることだ。売り上げに貢献しよう」
「たくさん食べたら体力もつくもんな!」
ブレイズがフウトの意見に賛同する。アースも嬉しそうだ。
「やったぁ!たくさん食べていいの!?」
「ああ、そうだぜ!アース、何食べよっか?」
ダイチとアースがメニュー表を見ている横で、フレイアが言う。
「ねぇ…たくさん食べるって言ってたけど、その出費はどうするの?」
「わたしが払いますね」
ミサキは笑顔で言う。本当はアクアのことで頭がいっぱいだったが、それを隠すかのように。
「よし、じゃんじゃん頼もうぜ!アース、今日は遠慮しなくていいんだぞ!」
ダイチは机の上の呼び鈴を鳴らした。

呼び鈴を鳴らすと、あでやかな黒髪を結い上げ、華やかな着物を着た女性の遊者が来た。
「ようこそおいでなんし。わっちはコトエ。この店の花魁でありんす」
「あの、注文…」
「ちょっと待て!注文はその後だ」
注文をしようとするダイチを止めたフウトは、コトエに聞く。
「すみません…サクハナで最近何か変わったことはありませんでしたか?」
コトエはそれを聞いて手招きで合図すると、着物姿のエレメントの少女が来た。
「コトエ、どうしたの?お客様?」
コトエがうなずくと、エレメントの少女はハナ達に向き直る。

「えっと、ようこそおいでくださいました。わたくしはルイラです。ここでお勉強させてもらってます」
「…と、廓言葉で情報提供は難しいからね。此処からは普段通り喋らせてもらうよ。で、何の話が聞きたいんだい?」
普通に話すことにしたコトエに、ハナが質問した。
「最近、桜梅屋でエーテルのエレメントを見ましたか?」
「なるほど、エーテルねぇ…うちの方でも見たけれど、幸い被害も無く今の所はその一件だけだね」
ルイラはそのことについて補足する。
「わたくしも今のところそのような方には出会っていませんわ。でも、ミカちゃ…わたくしの友達は、白兎屋はくとやの方で怪しいエレメントを見たみたいです。その時は、彼女自身に被害は無かったみたいですが…」
ルイラの友達であるミカとは白兎屋で働くエレメントの少女である。ルイラは心配そうに言った。
「白兎屋は被害もあったので、心配、です…」
その横で、コトエが言った。
「ただ、歌詠屋の方では売り物の着物を破られたって言ってたし、白兎屋では花壇や仕事場が荒らされて、仕事にならないって言ってたよ」
歌詠屋はバンカラな雰囲気が特徴の男店である。コトエは悲しそうだ。
「花魁道中もできる状態じゃないからねぇ…商売上がったりだし、街の活気もなくなって、まぁ寂しくなっちまったモンさ…」

「そういえば、花魁道中は当分中止だって前にある掲示板にあったわね」
フレイアがサクハナの前にあった掲示板の内容を思い出す。
「さて、アタイが分かるのはこのくらいかな。少しでも助けになれば良いけれど」
コトエはそう言った。ダイチはさっきしようとした注文をした。ルイラは注文をメモに取っている。
「では、わっちはこれで失礼いたしいす。どうかゆっくりしておくんなまし」
「あ、では、わたくしもこれで…また、お話しましょうね」
コトエは頭を下げて去った。ルイラも後に続く。

食事の後、ミサキはダイチとアースを呼び出した。
「…どうしたんだ、ミサキ?」
ミサキはダイチとアースなら大丈夫だと話した。
「エーテルのエレメントをパートナーにしたいと思ってるの…アクアっていう女の子だけど」
「アクアって…エメと一緒にいた女の子?」
アースが聞くと、ミサキは言う。
「そうだよ、だから話したいことがあるの」
ミサキは一呼吸おいて話し始めた。
「わたしはアクアを探そうと思ってるの…見つけたら連絡するからダイチくんはハナ達と行動して」
「わかった、何かあったら連絡しろよ!」
「うん!アクアを見つけたらよろしくね」
ダイチはアースと共に走って行った。ミサキはハナ達より先にヒカグラを出て、アクアを探しに行った。
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