ライナスの布
「切国ー!切国どこに行ったんだ!?」
山姥切長義が出陣から戻って最初に聞いた声は、切国こと山姥切国広を探す歌仙兼定の声だった。
「偽物くん」と呼べば「写しは偽物とは違う」と言い返してくる生意気な写しではあるが、同じ山姥切の名を持つものとして、他の刀に迷惑をかけているのなら見過ごせない。
本丸に戻ったら、部屋に置いてあるお気に入りの本の続きを読もうと思っていたのになと、溜息をつきながら歌仙の元へ向かった。
「歌仙」
「ああ、山姥切か。出陣から戻ってたのか、おかえり」
山姥切に気づいた歌仙に向けて、山姥切はいつもの様に微笑んだ。
「ついさっきね、ただいま。……偽物くんがどうかしたのかな?」
「実は彼の布を洗わせて貰おうとしたんだが、逃げられてしまってね。今日こそはと思ってたんだけど……全く、困ったものだ」
そう言って歌仙は腰に手を当てて溜息をつき、山姥切もすっかりお馴染みになってしまった出来事に呆れて溜息をついた。
「はあ……何をやっているんだあいつは……分かった、探してくるよ」
「いいのかい?彼を探すのは骨が折れるよ?」
「彼の隠れている所なんかは、大体見当がついているからね。少しだけ待っていてくれ」
そう言って手をヒラリと振って、山姥切はスタスタと一直線にどこかへと行ってしまった。