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布攻防戦

 ちゃんと玄関で靴を履いて、広い庭の一角で周りに他の刀がいないかちゃんと確認してから、二振は向かい合ってジリジリと睨み合った。
先に山姥切が自分が纏っているストールを撫でて、ふわりと靡かせた。
それに応える様に国広も自分の襤褸布を浮かび上がらせた。

「いい機会だ。本物の布さばきを見せてやるよ、偽物くん!」
「望むところだ、俺のプリンの恨みここで晴らしてやる!!」

斬り合いでも始めるのかと思ったが、実際にぶつかり合ったのは二振の刀ではなく、彼らの纏う布だった。

 この本丸では緊急事態以外での抜刀は禁じられている、仲間同士での斬り合いなんてもっての外だ。
ケンカ自体はいくらでもしていいが、もしケンカをするのなら武器は使わず、自分の身一つで勝負しろとの審神者の命だ。
なのでケンカになると、基本殴り合いになる事が多い。
が、服や布の扱いに長けた者は、それをケンカに利用する刀もいた。
 例えば朝から酒を飲んでいる日本号を注意した長谷部が、口論の末そのまま殴り合いに発展してしまったのだが、最終的にストラで往復ビンタをして、日本号をノックアウトさせていた。
他に例を挙げるとなると、加州と安定が最後の一つのおやつ取り合いで揉めて、自分の襟巻で殴り合いをするようになり、最後にはクロスカウンターをキメて引き分けになった事は、比較的新しい話だ。
こういった風に自分の服や布を利用するケンカは、この本丸では珍しくは無いのだ。

 そして服や布を利用したケンカで一番派手になるのが、山姥切と国広のケンカだった。
どちらも布を纏っている彼らはケンカになると、必ず自分の布を使ってケンカをする。

 まず山姥切の布は青い裏地がついているので、見た目に反して重い。
更に四隅に付いている房飾りを遠心力を付けて相手に殴りつけると、相手は思いのほかダメージを負ってしまう。
前に彼の後ろにいた南泉が猫の呪いの影響で、彼の布に付いているゆらゆら揺れる房飾りを見て、うっかり飛びついてしまったのだが、その時手にしていた大事な資料が破れてしまって怒った山姥切に殴られてしまい、顔に大きな青あざを作る羽目になってしまった。
自分が招いた事ではあるが、その後南泉は呪いのせいで山姥切に飛びついてしまった事と、殴られた事でしばらくへこんでいた。
 対して国広の布は重さは無いが、攻撃に使える布の面積はこの本丸随一の広さを誇る。
裾が破けてほつれている箇所を逆に利用して、一時的に先端を細くして相手を突くと、相手は軽い切り傷を負ったりしてしまい、これが地味に痛い。
しかも圧倒的に手数が多いので、油断するとあっという間に細かい切り傷まみれになってしまうのだ。
更に厄介なのはこれからで、表皮のみを切られた浅い切り傷は地味に痛い。
動く度にチクチクと痛むし、ケンカによって負った傷は、基本審神者は手入れはしない事になっているので、自然治癒に任せないといけないのだが、治るまでの間、風呂に入るとかなりしみる。
なので数日にわたって、相手に地味なダメージを与え続ける事が出来るのだ。


「ぶん殴る!」
「突く!」

 互いの布は縦横無尽に舞い踊り、相手に攻撃をしかけていく。
殴られては突き、避けて相手の攻撃を捌いては殴りかかる。
ちなみに本刃達は、一切殴り合いをしていない。
襲い掛かってくる相手の布を避けたり、攻めやすいポジションに立ち回るだけだ。
それでも二振り共、既に青あざや引っ掻き傷で傷だらけになってしまい、軽傷一歩手前までダメージを負っていた。
それでも両者一歩も退かず、布を使った戦いは激化する一方だった。

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