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にわか雨 駆ける歪な 影一つ

「おかえり、大変だったね。傘を忘れてたからちょうど迎えに行こうとしていたんだ」
「ただいま燭台切殿。丁度良かった、入れ違いになる所だったね」
「ただいま」

 ようやく本丸のゲートを抜けると、玄関から傘を何本か持った燭台切光忠が出てきた。
二振りを迎えに行こうとしてくれていたらしく、既に差していた傘に彼らを入れて、早く玄関の中に入るように促した。

「おかえりー……って、うわっ。びしょ濡れじゃん大丈夫?」

 大きく響く玄関の扉の音に、たまたま居合わせた加州清光が目を向けると、すっかり濡れ鼠になっている二振りにぎょっとして駆け寄った。
山姥切が雨を防ぐために自分の布を傘替わりにしていたが、その状態で全力で走ったので、膝から下は土や泥水にまみれ、強い向かい風も吹いていたので、彼らの髪からはポタポタと水が垂れていた。
殆ど濡れていないのは、服の上の部分と国広が抱えていた布の塊位だった。

「ああ、加州か。ただいま」
「ただいま」
「まだ上がらないでね、タオル持ってくるから。そこで服とか絞れるもの絞っといて」
「分かった、お願いするよ」

加州はそう二振りに言いつけると、小走りで奥に姿を消した。

「燭台切、悪いがこれの中身を主と厨に持って行ってくれないか。自分の布でも覆ったから中身は無事だと思うが」
「オーケー、分かったよ」

国広は巻いていた自分の布をほどいて、燭台切に風呂敷の包みを手渡すと、雨で多少濡れた自分の布の裾を軽く絞った。

「お待たせ、はいタオル。靴下とかは洗うからここで脱げるものは脱いじゃって、お風呂も沸いてるらしいから夕餉の前に入った方がいいよ」
「ありがとう」
「ありがとう加州」

 小走りで戻って来た加州は、二振りに大きいタオルを手渡した。
汚れた服を洗濯に出す為に、大きめの洗濯籠も一緒に持ってきていて、彼らの足元にそれを置いた。
タオルを受け取った二振りは一度タオルを頭に被って、身に着けている濡れた服をさっさと脱いで洗濯籠に放り込み、下穿きのみの状態になって髪をタオルで拭き始めた。

「わっ、山姥切の足痣だらけじゃん。今日の遠征そんなに大変だったの?」
「えっ?」

加州が指さした先には、山姥切の白磁の様なすらりとした足は、無数の青や紫の痣に彩られていた。

「ああ、これは偽物くんが走りながら俺の足を蹴ったせいでこうなったんだよ」
「ふん、籠手を巻いた腕で背中に肘鉄を何度も食らわせた奴がよく言う……」
「え……、うわっ?!国広の背中もやばいじゃん」

山姥切の説明にボソリと反論した国広の言葉に、加州がひょいと彼の背中を見ると、同じく白くてそれなりに筋肉のついた背中には、大きな青痣がいくつも浮かび上がっていた。
じりじりとした険悪な空気が二振りの間に流れて、きつい二つの眼光が交差した。

「……お前、明日の手合わせ覚えてろよ。立てなくなるまで打ちのめしてやる」
「望むところだ返り討ちにしてやる。手入れ部屋送りになっても後で後悔するなよ」
「はいはいここで言い争ってないで、さっさと風呂行って」

今にも掴みかかって殴りあいになりそうな二振りに、加州は背中を思い切り押して歩くように促した。
彼らはそれに従う様に、無言で互いを睨みつけながら風呂場へと消えていった。

「はあ……あいつら戦闘の時は息ぴったりの癖に、何で普段はああも仲悪いんだろう」
「ははは、そうだね。昨日も一緒に誉を取ったみたいだし」

 洗濯籠からはみ出した服を中に突っ込みながら加州がぼやくと、国広から渡された風呂敷をほどきながら燭台切が小さく笑った。
普段はとても仲が悪い二振りだが、いざという時には何故か意見が合う。
そして戦闘での立ち回りではそんな事を感じさせない程息が合い、仲が悪い事は分かっていても出陣の時は、審神者はよくこの二振りを同じ部隊に編成しているのだ。
仲が悪いとはいっても、彼らの根っこの部分には似通った部分があるのだろう。
なので、燭台切は普段の仲は悪くても、彼らは互いに嫌いあっているわけではないと思っていた。

「喧嘩する程何とやらって言うから、僕はあの二振りもそうなんじゃないかなって思うな」
「そーかもね」


翌日本丸の道場では、手合わせで足へ何度も鋭い攻撃を仕掛けてくる山姥切と、彼の背中を執拗に狙う国広の姿が見られた。

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