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にわか雨 駆ける歪な 影一つ

 二振りは万屋の入口の屋根の下でしばらくの間突っ立って、雨が止むか小降りになるのを待った。
しかし雨は一向に止む気配はなく、屋根の雨どいから溢れた雨水が屋根から滝の様に流れ落ち、更に遠くの空では雷が鳴っているらしく、空から響く轟音が遥か遠くから少しずつこちらに向かって来ていた。

「すぐに止みそうにないな……雷も聞こえてくるし、雨が止むのを待っていたら遅くなりそうだ……仕方ない」

 雨宿りしている間ずっと黙っていた国広が遠くの雷の音を聞くと、いきなり自分が纏っていた布を取って、持っていた風呂敷の包みの上から被せると、そのままぐるぐると巻いて大きな布の塊にした。

「何をしているのかな」
「俺が走って本丸に荷物を持ち帰って傘を取って来るから、あんたはここで待っていてくれ」
「待て」

 国広が布の塊を胸に抱えて屋根から出ようとすると、山姥切は彼の肩を掴んで引き止めた。
走ろうとしていた所を引き止められて、国広は走ろうと身構えた状態のまま、じれったいと言わんばかりの目つきで、肩越しに振り返った。

「何だ。俺の迎えが嫌なら他の奴に頼むが」
「違う。それだと二度手間になるだろう」

そう言って山姥切も自分のストールを外すと、それを自分と国広が雨に濡れないように頭の上で広げた。

「俺が雨を防ぐから、お前はその荷物を濡らさないようにしっかり抱えて走れ。それなら一度で済むだろう」
「……」
「何だよ。正直お前と一緒になんて嫌でしょうがないが、傘が無いんだ。風邪でもひかれたら本丸の運営にも支障が出る」

 意図が分からずどういうつもりかと、国広が山姥切を見上げていると、彼は露骨に嫌そうに顔を歪めながらも、更に自分の布を国広の頭上へ寄せた。
それに伴って嫌でも二振りの距離は近くなる。
国広も山姥切とこんな相合傘みたいな状態になるのは嫌だったが、早くこの荷物を本丸に持ち帰りたいというのもある。
他にいい方法も思いつかなかった国広は、渋々と頷いた。

「行くぞ。ぬかるみに嵌まって転ぶなよ偽物くん」
「ああ。あんたが転んでも、俺は置いていくからな」
「俺がそんな無様晒す訳ないだろう、合図したら同時に走るぞ」
「ああ」

二振りは全速力で走る為に、雨で視界が悪くなっている本丸への帰り道を見据えた。

「三、二、一、行くぞ!」

山姥切の合図で、二振りは屋根の下から大雨の道へ同時に飛び出した。

「おい、もっと静かに走れないのか!こっちまで泥が跳ねるだろう!」
「あんたの姿勢が低いから走りにくいんだ!仕方ないだろうが!」
「いたっ、おい今のわざとじゃないだろうな?!」
「そんな柔な足じゃないだろう!!」

雨の道の中、濡れた土や水溜まりの泥水を蹴って、雷鳴に負けない大音量で怒鳴り合いながら駆け抜けた。

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