布つくも
「来たか、手間をかけたな」
毛布に案内されたのは大俱利伽羅の部屋だった。
部屋壁にもたれかかって本を読んでいた大倶利伽羅は、国広がここに来た事に驚く様子もなく、彼は毛布に労いの言葉を投げかけた。
どうやら毛布が国広をこの部屋に連れて来たのは、彼がここに呼んでくるように頼んだからだったようだ。
毛布はふいと進行方向を変えると、部屋の奥にある押入れの襖を半分だけ開けた。
すると、探していた饅頭がそろそろと中から顔を出した。
「饅頭、ここにいたのか」
「ほら、お前の主が来たぞ」
大倶利伽羅の声と毛布に促されながら、饅頭は元気が無い様子で出てくるとゆっくり国広に近づいて、そのまま彼の背中に張り付いた。
その様子を見て国広は饅頭を手元に引き寄せると、かつて今までそうしていたように饅頭を身に纏ってフードを被った。
それだけで饅頭は安心したらしく、さっきまで強張っていた力を抜いて何の変哲もないただの布の状態になった。
「饅頭がすまないな、あんたの所いたんだな」
大倶利伽羅に礼を言って、国広は彼が用意してくれた緑茶に口を付けた。
彼は国広が顕現してからカンストを迎えるまで、ずっと同じ部隊に所属していた刀だった。
二振り共、元々口数の多くない刀だった事から馬が合い、互いに極となってから部隊が別れても、こうして時々一緒に茶を飲むくらいの仲になっていた。
「随分慌てた様子で俺の布にぶつかって来た。何かあったのか」
「さっき厨で水を飲みに行ったんだが、その時に歌仙に会ってな。また無理矢理洗われるとでも思ったのか、饅頭が逃げたんだ」
「なんだ。お前の布まだあいつに慣れていなかったのか」
「こいつも歌仙を嫌っている訳ではないらしいんだがな」
実際に何度も饅頭に避けられて落ち込んでいる歌仙を、何とか慰めようと彼の背後から何とか近づこうとしては失敗して、部屋でこの世の終わりとばかりに落ち込んでいる饅頭を国広は何度か見ている。
「あいつもそれくらいで簡単にめげる奴ではないだろう。もう少し様子を見てやったらどうだ」
「ああ。長い目で見ていこうと思う」
「おい、こら!待て!!」
突然部屋の外から怒鳴り声が聞こえて来たので二振りが入口に目を向けると、僅かに開いていた入口から一反木綿が飛び込んで来た。
いきなり顔面に飛び掛かって来る一反木綿に、国広は驚いて持っていた湯呑みを落としそうになった。
「わっ!?」
飛んできた一反木綿はただの布の状態になった饅頭が、自分が来たのに何の反応も無い事に気づき、国広の周りとうろうろしながら、不思議そうに自分の房飾りをひらひらと動かした。
「一反木綿、すまないが饅頭は今疲れているんだ。少しの間そっとしてやってくれないか」
一反木綿は少し不満そうな仕草をしたがすぐに国広の隣に下りて、時々饅頭を伺うような仕草をする程度に落ち着いた。
すると遠くから慌ただしい足音が近づき、今度は怒った顔の山姥切が部屋にずかずかと入って来た。
「失礼する!こら一反も…んん゛っ俺のストール!まだ報告も終わっていないのに勝手にいなくなるな!!」
「おかえり」
「おかえり山姥切、あんたもその名前気に入ってくれたんだな」
「ただいま。今のは言葉の綾だよ!ほら早く来い!」
ついうっかり『一反木綿』と呼びかけた事に目を輝かせる国広に、山姥切は噛みつきながらも一反木綿を彼から引き剥がそうとした。
その一連を見ながら「こんなに怒鳴っているのにちゃんと『ただいま』は言うんだな」と思いながら、大倶利伽羅は他人事の様に残っていた緑茶を啜った。
「まんじゅ……偽物くんの布だって疲れているんだから、後でまた会いに来ればいいだろ、早く行くぞ!」
「一反木綿、出陣は主への報告が終わるまでだぞ」
一反木綿もそれは分かっているらしいが、今日は駄々をこねて嫌そうな態度を見せた。
それを見た山姥切は、表情から温度をスッと消した。
「これ以上駄々をこねるなら、今日はお前の手入れは無しにするぞ。今夜は汚れたままで過ごすんだな」
そう冷たく言い放って山姥切が部屋から出ようとすると、一反木綿は慌てて山姥切の元へ飛んで行って、彼の首元に巻き付いた。
「ふん、行くぞ。邪魔したね、大倶利伽羅」
「ああ」
首に巻き付いた一反木綿を簡単に整えると、今度こそ審神者に報告に行くために部屋から出ていった。
「さて外も暗くなってきたみたいだし、俺もそろそろ部屋に戻るか。ありがとう大俱利伽羅、部屋で夕餉まで饅頭を休ませてくる」
「ああ、そうしてやれ」
「毛布も案内をしてくれてありがとうな、饅頭の世話もしてくれたんだろう?」
何だかんだ言って毛布も持ち主と同じく世話が上手い所がある。
国広をここに連れてくる前はきっと疲弊していた饅頭の世話を焼いてくれていたのだろう。
国広が礼を言うと、毛布はどこか居心地が悪そうに自分の裾で畳を軽く叩くと、音もなく大倶利伽羅の背中に隠れてしまった。
「では失礼する」
「ああ」
毛布に案内されたのは大俱利伽羅の部屋だった。
部屋壁にもたれかかって本を読んでいた大倶利伽羅は、国広がここに来た事に驚く様子もなく、彼は毛布に労いの言葉を投げかけた。
どうやら毛布が国広をこの部屋に連れて来たのは、彼がここに呼んでくるように頼んだからだったようだ。
毛布はふいと進行方向を変えると、部屋の奥にある押入れの襖を半分だけ開けた。
すると、探していた饅頭がそろそろと中から顔を出した。
「饅頭、ここにいたのか」
「ほら、お前の主が来たぞ」
大倶利伽羅の声と毛布に促されながら、饅頭は元気が無い様子で出てくるとゆっくり国広に近づいて、そのまま彼の背中に張り付いた。
その様子を見て国広は饅頭を手元に引き寄せると、かつて今までそうしていたように饅頭を身に纏ってフードを被った。
それだけで饅頭は安心したらしく、さっきまで強張っていた力を抜いて何の変哲もないただの布の状態になった。
「饅頭がすまないな、あんたの所いたんだな」
大倶利伽羅に礼を言って、国広は彼が用意してくれた緑茶に口を付けた。
彼は国広が顕現してからカンストを迎えるまで、ずっと同じ部隊に所属していた刀だった。
二振り共、元々口数の多くない刀だった事から馬が合い、互いに極となってから部隊が別れても、こうして時々一緒に茶を飲むくらいの仲になっていた。
「随分慌てた様子で俺の布にぶつかって来た。何かあったのか」
「さっき厨で水を飲みに行ったんだが、その時に歌仙に会ってな。また無理矢理洗われるとでも思ったのか、饅頭が逃げたんだ」
「なんだ。お前の布まだあいつに慣れていなかったのか」
「こいつも歌仙を嫌っている訳ではないらしいんだがな」
実際に何度も饅頭に避けられて落ち込んでいる歌仙を、何とか慰めようと彼の背後から何とか近づこうとしては失敗して、部屋でこの世の終わりとばかりに落ち込んでいる饅頭を国広は何度か見ている。
「あいつもそれくらいで簡単にめげる奴ではないだろう。もう少し様子を見てやったらどうだ」
「ああ。長い目で見ていこうと思う」
「おい、こら!待て!!」
突然部屋の外から怒鳴り声が聞こえて来たので二振りが入口に目を向けると、僅かに開いていた入口から一反木綿が飛び込んで来た。
いきなり顔面に飛び掛かって来る一反木綿に、国広は驚いて持っていた湯呑みを落としそうになった。
「わっ!?」
飛んできた一反木綿はただの布の状態になった饅頭が、自分が来たのに何の反応も無い事に気づき、国広の周りとうろうろしながら、不思議そうに自分の房飾りをひらひらと動かした。
「一反木綿、すまないが饅頭は今疲れているんだ。少しの間そっとしてやってくれないか」
一反木綿は少し不満そうな仕草をしたがすぐに国広の隣に下りて、時々饅頭を伺うような仕草をする程度に落ち着いた。
すると遠くから慌ただしい足音が近づき、今度は怒った顔の山姥切が部屋にずかずかと入って来た。
「失礼する!こら一反も…んん゛っ俺のストール!まだ報告も終わっていないのに勝手にいなくなるな!!」
「おかえり」
「おかえり山姥切、あんたもその名前気に入ってくれたんだな」
「ただいま。今のは言葉の綾だよ!ほら早く来い!」
ついうっかり『一反木綿』と呼びかけた事に目を輝かせる国広に、山姥切は噛みつきながらも一反木綿を彼から引き剥がそうとした。
その一連を見ながら「こんなに怒鳴っているのにちゃんと『ただいま』は言うんだな」と思いながら、大倶利伽羅は他人事の様に残っていた緑茶を啜った。
「まんじゅ……偽物くんの布だって疲れているんだから、後でまた会いに来ればいいだろ、早く行くぞ!」
「一反木綿、出陣は主への報告が終わるまでだぞ」
一反木綿もそれは分かっているらしいが、今日は駄々をこねて嫌そうな態度を見せた。
それを見た山姥切は、表情から温度をスッと消した。
「これ以上駄々をこねるなら、今日はお前の手入れは無しにするぞ。今夜は汚れたままで過ごすんだな」
そう冷たく言い放って山姥切が部屋から出ようとすると、一反木綿は慌てて山姥切の元へ飛んで行って、彼の首元に巻き付いた。
「ふん、行くぞ。邪魔したね、大倶利伽羅」
「ああ」
首に巻き付いた一反木綿を簡単に整えると、今度こそ審神者に報告に行くために部屋から出ていった。
「さて外も暗くなってきたみたいだし、俺もそろそろ部屋に戻るか。ありがとう大俱利伽羅、部屋で夕餉まで饅頭を休ませてくる」
「ああ、そうしてやれ」
「毛布も案内をしてくれてありがとうな、饅頭の世話もしてくれたんだろう?」
何だかんだ言って毛布も持ち主と同じく世話が上手い所がある。
国広をここに連れてくる前はきっと疲弊していた饅頭の世話を焼いてくれていたのだろう。
国広が礼を言うと、毛布はどこか居心地が悪そうに自分の裾で畳を軽く叩くと、音もなく大倶利伽羅の背中に隠れてしまった。
「では失礼する」
「ああ」