布つくも
「あいつ随分遠くに逃げたみたいだな……」
先程同様近くにいるだろうと踏んでいたが、予想に反して饅頭は遠くに逃げていってしまったらしく、国広は饅頭を探して本丸を歩き回っていた。
饅頭が他の刀の部屋に自分から入る事は無いので、人気の少ない所を中心に探しながら廊下を曲がると、突然国広の視界が白一色に染まった。
何が起こったのか一瞬分からなかったが、鎖の軽い音を聞いてすぐにその正体が分かった。
「白兎、前が見えない」
目の前の白を軽く叩くと、『白兎』と呼ばれた鶴丸国永の羽織が、持ち主が声を出して笑っている時の様に腹の部分の空間を抱えて、肩の部分を上下に揺らしていた。
白兎は最近付喪神化したばかりだが、そうとは思えない程活発に動き回り、こうして廊下の突き当りに飛び出しては出くわした刀達を驚かせていた。
この前に白兎にこの廊下で驚かされた饅頭が、しばらくの間国広の足から離れようとしなかったのは記憶に新しい。
まるで鶴丸がもう一振り増えたのではと思うくらい、この白兎も誰かを驚かせるのが大好きだった。
「白兎。今饅頭を探しているんだが、見ていないか?」
饅頭がいない事に気づいた白兎は、不思議そうに国広の足の周りを回っていたが、彼に饅頭の居所を聞かれると、しばらく考える様に頭の部分にあたるフードのを傾けたが、ややあってふるふるとそれを横に振った。
白兎に驚かされて更に遠くに逃げたのかとも思ったが、どうやら今回はそうではなかったらしい。
「分かった、ありがとう」
「あ、いた!白兎さーん!」
白兎を呼ぶ声に振り向くと、庭で遊んでいた短刀達が走ってやって来た。
「今からみんなで鬼ごっこするんです。一緒にやりませんか?」
秋田藤四郎が声をかけると、白兎は楽しそうに跳ねながら片手を上げて、短刀達に向かって飛んでいった。
「国広さんもどうですか?」
「いや、俺は遠慮しておこう。饅頭が居なくなってな、今探しているんだが見ていないか?」
「饅頭さんがですか?僕は見てないです」
「オレは見てないなあ」
「ボクも見てない」
国広が尋ねると秋田は首を横に振り、一緒に来た厚藤四郎と乱藤四郎も首を横に振った。
「俺達はずっとこの辺りの庭にいたが、少なくともこっちには来てないと思うぜ」
薬研がそう言うと、国広は腕を組んで饅頭が逃げた場所を頭の中で絞った。
「そうか、ありがとう。では違う所を探してみる、もし見かけたら俺が探していたと声を掛けてやってくれ」
「おう、分かった」
国広が彼らに礼を言ってからその場を離れ、元来た廊下を戻って反対方向へ向かった。
ここまで探してもいないとなると、自分の部屋に戻ったのだろうかと思っていると、ジャージの裾の部分が引かれる感覚があった。
国広が見下ろすと、大倶利伽羅が極になる前の赤い腰布の『毛布』がジャージの裾を控えめに引っ張っていた。
「どうした毛布?何かあったか?」
国広の言葉には何も答えず、音も立てずに彼の前へ移動して「ついてこい」と言うばかりに、布の端で彼を手招きする仕草をした。
「ついて来い、という事か?」
答える気は無いらしく、毛布はそのままさっさと先に進んでいく。
ここはついて行くしかないだろうと判断して、国広は大分離れて先を進んでいく毛布を小走りで追いかけた。
先程同様近くにいるだろうと踏んでいたが、予想に反して饅頭は遠くに逃げていってしまったらしく、国広は饅頭を探して本丸を歩き回っていた。
饅頭が他の刀の部屋に自分から入る事は無いので、人気の少ない所を中心に探しながら廊下を曲がると、突然国広の視界が白一色に染まった。
何が起こったのか一瞬分からなかったが、鎖の軽い音を聞いてすぐにその正体が分かった。
「白兎、前が見えない」
目の前の白を軽く叩くと、『白兎』と呼ばれた鶴丸国永の羽織が、持ち主が声を出して笑っている時の様に腹の部分の空間を抱えて、肩の部分を上下に揺らしていた。
白兎は最近付喪神化したばかりだが、そうとは思えない程活発に動き回り、こうして廊下の突き当りに飛び出しては出くわした刀達を驚かせていた。
この前に白兎にこの廊下で驚かされた饅頭が、しばらくの間国広の足から離れようとしなかったのは記憶に新しい。
まるで鶴丸がもう一振り増えたのではと思うくらい、この白兎も誰かを驚かせるのが大好きだった。
「白兎。今饅頭を探しているんだが、見ていないか?」
饅頭がいない事に気づいた白兎は、不思議そうに国広の足の周りを回っていたが、彼に饅頭の居所を聞かれると、しばらく考える様に頭の部分にあたるフードのを傾けたが、ややあってふるふるとそれを横に振った。
白兎に驚かされて更に遠くに逃げたのかとも思ったが、どうやら今回はそうではなかったらしい。
「分かった、ありがとう」
「あ、いた!白兎さーん!」
白兎を呼ぶ声に振り向くと、庭で遊んでいた短刀達が走ってやって来た。
「今からみんなで鬼ごっこするんです。一緒にやりませんか?」
秋田藤四郎が声をかけると、白兎は楽しそうに跳ねながら片手を上げて、短刀達に向かって飛んでいった。
「国広さんもどうですか?」
「いや、俺は遠慮しておこう。饅頭が居なくなってな、今探しているんだが見ていないか?」
「饅頭さんがですか?僕は見てないです」
「オレは見てないなあ」
「ボクも見てない」
国広が尋ねると秋田は首を横に振り、一緒に来た厚藤四郎と乱藤四郎も首を横に振った。
「俺達はずっとこの辺りの庭にいたが、少なくともこっちには来てないと思うぜ」
薬研がそう言うと、国広は腕を組んで饅頭が逃げた場所を頭の中で絞った。
「そうか、ありがとう。では違う所を探してみる、もし見かけたら俺が探していたと声を掛けてやってくれ」
「おう、分かった」
国広が彼らに礼を言ってからその場を離れ、元来た廊下を戻って反対方向へ向かった。
ここまで探してもいないとなると、自分の部屋に戻ったのだろうかと思っていると、ジャージの裾の部分が引かれる感覚があった。
国広が見下ろすと、大倶利伽羅が極になる前の赤い腰布の『毛布』がジャージの裾を控えめに引っ張っていた。
「どうした毛布?何かあったか?」
国広の言葉には何も答えず、音も立てずに彼の前へ移動して「ついてこい」と言うばかりに、布の端で彼を手招きする仕草をした。
「ついて来い、という事か?」
答える気は無いらしく、毛布はそのままさっさと先に進んでいく。
ここはついて行くしかないだろうと判断して、国広は大分離れて先を進んでいく毛布を小走りで追いかけた。