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布つくも

 洗濯物を干し終えて、饅頭を連れながら国広が廊下を歩いていると、審神者の部屋の入口近くでへし切長谷部のストラがうろうろしていた。
落ち着きなく行ったり来たりをしては、物音を立てないようにそっと部屋の中を伺おうとしていた。

「どうしたんだ昆布、そんな所で」

声をかけられた長谷部のストラ改め『昆布』は、驚いた様子でその場で飛び跳ねると、慌ててストラの前の部分を使って「しーっ」と静かにするように促す仕草をした。

「主なら今日は違う仕事に行っているから、本丸に帰って来るのは夜だぞ」

 この本丸の審神者は、審神者業と兼ねて違う仕事も行っているので、平日の日中は本丸から会社に出勤し、夜に本丸に帰ってから審神者としての業務に取り掛かる。
土日は会社が休みなので一日中本丸にいたのだが、どうやら昆布は曜日を勘違いしてしまったらしい。
国広の言葉に、昆布はわかりやすく「ガーン」と音でも鳴るような反応をすると、そのままよろよろと落ち込んだようにどこかへ行こうとした。

「そういえばさっき長谷部が探していたぞ。いつものように書類の整理をしているから、一緒にいれば夜に主に会えるんじゃないか?」

それを聞いた昆布は、さっきの落ち込みようとは対照的にいきなり元気になった。

「ここにいたか」
「長谷部」

後ろからの声に振り向くと、昆布の持ち主である長谷部が大量の紙の束を抱えて立っていた。

「昆布が主を探していたみたいで、よかったら主が帰ってくるまで一緒にいてやって貰えないだろうか」
「ちょうど判子押しを手伝って貰おうと思っていたんだ。こいつ用のサックも用意してある」

そう言って長谷部は昆布用に自作した、ストラの先の部分に嵌めて使う指サック代わりの物をポケットから取り出した。
それに気づいた昆布は「任せろ」と言わんばかりに、ストラで力こぶを作る仕草をしてみせた。
昆布は付喪神化した戦装束の布の中でも一際器用で、書類仕事で軽い物を運ばせる事から始まり、簡単ではあるが様々な仕事を長谷部が教えていった。
努力家な所もあったので、昆布は驚く速さで彼に教えられた事を覚えていき、最近では書類の判子押しもできるようになっていた。
 
「頑張れよ昆布」
「行くぞ、俺のストラ。主の為に今日中にこの仕事を終わらせるぞ」

昆布は国広に手を振る仕草をすると宙に浮いて、廊下の向こうに去っていく長谷部の後ろに着いていった。

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