布つくも
「偽物くん!!」
洗濯日和の快晴の空の下、物干し竿に洗い終えたばかりの洗濯物を干していた山姥切国広は、慌ただしい足音と共にやって来た己の本歌である刀、山姥切長義の声に振り向いた。
「写しは偽物じゃない、そんなに慌ててどうしたんだ」
「俺のストールを見ていないか!?さっき戦装束に着替える途中にいなくなったんだよ」
「ああ、ここにいるぞ」
国広が指さした先には、物干し竿の根元付近で小さく丸まっている少し薄汚れた国広の布と、そのフードの部分を飾りの房の部分を使って、撫でるような仕草をしている山姥切のストールが宙に浮いていた。
「おい、俺のストール。早くこっちに来い」
山姥切が呼ぶと、ストールは反応した仕草を見せたが、すぐにふいとそっぽを向いて国広の布の背中側に回った。
その動きを見て、山姥切は口の端をひくりと引き攣らせた。
「俺のストールの癖に良い度胸じゃあないか……」
「おい一反木綿、今日は出陣の日だろう。自分の主の元に戻ってやれ」
国広から出陣という単語を聞くと、山姥切のストール改め『一反木綿』は、すぐさま山姥切に飛びつくように彼の肩に巻き付いた。
「ったく……俺のストールだと言うのに、何で俺より偽物くんの方に懐いているんだ」
巻き付いてきた一反木綿を整えながら、山姥切は小さく悪態をついた。
「俺に懐いているのではなくて、一反木綿は饅頭の事を気に入っているからな」
そう言って足元にすり寄って来る国広の布改め『饅頭』を、国広はしゃがんで撫でた。
撫でられた饅頭は嬉しそうに、布の端をぱたぱたと揺らした。
「その一反木綿って呼び方やめてくれないかな。俺の布にはストールと言う、ちゃんとした名称があるのだが」
「俺にはおしゃれというものが分からないからな、連想して浮かんだのがそれだった。動き方が似ているだろう?」
「仮にも化け物を斬った刀の布に、妖怪と同じ名前を付けるなんて……俺はお前のネーミングセンスを疑うよ」
自分のストールが一反木綿と呼ばれている事が気に入らない山姥切は眉を歪めたが、あっけらかんと名前の由来を言う国広を見て、彼は呆れたように溜息をつきながら首を横に振った。
「俺はこの呼び方気に入っているんだがな……そう話している内に、そろそろ時間じゃないのか」
「ああ、そうだね。そろそろ行くとしよう」
国広の指摘で山姥切が自分のポケットから時計を取り出すと、彼の言った通り出陣の時間が迫っていた。
「気をつけてな」
「ふっ、誰に向かって言っているのかな?誉の一つや二つ、この俺が取ってやる」
強気に笑った山姥切は、青色を翻しながら颯爽と戦場へ向かって行った。
洗濯日和の快晴の空の下、物干し竿に洗い終えたばかりの洗濯物を干していた山姥切国広は、慌ただしい足音と共にやって来た己の本歌である刀、山姥切長義の声に振り向いた。
「写しは偽物じゃない、そんなに慌ててどうしたんだ」
「俺のストールを見ていないか!?さっき戦装束に着替える途中にいなくなったんだよ」
「ああ、ここにいるぞ」
国広が指さした先には、物干し竿の根元付近で小さく丸まっている少し薄汚れた国広の布と、そのフードの部分を飾りの房の部分を使って、撫でるような仕草をしている山姥切のストールが宙に浮いていた。
「おい、俺のストール。早くこっちに来い」
山姥切が呼ぶと、ストールは反応した仕草を見せたが、すぐにふいとそっぽを向いて国広の布の背中側に回った。
その動きを見て、山姥切は口の端をひくりと引き攣らせた。
「俺のストールの癖に良い度胸じゃあないか……」
「おい一反木綿、今日は出陣の日だろう。自分の主の元に戻ってやれ」
国広から出陣という単語を聞くと、山姥切のストール改め『一反木綿』は、すぐさま山姥切に飛びつくように彼の肩に巻き付いた。
「ったく……俺のストールだと言うのに、何で俺より偽物くんの方に懐いているんだ」
巻き付いてきた一反木綿を整えながら、山姥切は小さく悪態をついた。
「俺に懐いているのではなくて、一反木綿は饅頭の事を気に入っているからな」
そう言って足元にすり寄って来る国広の布改め『饅頭』を、国広はしゃがんで撫でた。
撫でられた饅頭は嬉しそうに、布の端をぱたぱたと揺らした。
「その一反木綿って呼び方やめてくれないかな。俺の布にはストールと言う、ちゃんとした名称があるのだが」
「俺にはおしゃれというものが分からないからな、連想して浮かんだのがそれだった。動き方が似ているだろう?」
「仮にも化け物を斬った刀の布に、妖怪と同じ名前を付けるなんて……俺はお前のネーミングセンスを疑うよ」
自分のストールが一反木綿と呼ばれている事が気に入らない山姥切は眉を歪めたが、あっけらかんと名前の由来を言う国広を見て、彼は呆れたように溜息をつきながら首を横に振った。
「俺はこの呼び方気に入っているんだがな……そう話している内に、そろそろ時間じゃないのか」
「ああ、そうだね。そろそろ行くとしよう」
国広の指摘で山姥切が自分のポケットから時計を取り出すと、彼の言った通り出陣の時間が迫っていた。
「気をつけてな」
「ふっ、誰に向かって言っているのかな?誉の一つや二つ、この俺が取ってやる」
強気に笑った山姥切は、青色を翻しながら颯爽と戦場へ向かって行った。